2030年問題・2040年問題の背景をわかりやすく解説

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2024年4月22日(月)

目次

SNSの普及や人々の価値観、社会情勢の変化などによって働き方が多様化し、採用や雇用課題をはじめとする「2030年問題」を危惧している経営者も多いでしょう。近い将来予測されている大きな労働力の減少はほぼ確実なものとなっているため、人材に対する課題は今後ますます加速していくと考えられます。

本記事では、将来的に労働力の減少が懸念される2030年問題、2040年問題を題材に、企業が取り組むべき複数のテーマを説明します。変動が激しい社会のなかで、どのような経営戦略を立てていくか考える際、参考にしてみてください。

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2030年問題とは

2030年問題とは、65歳以上の人口が増加する影響で顕在化すると予測されている、社会問題の総称です。すでに65歳以上の人口は、2019年時点で28.4%とほぼ国民の3人に1人の割合。反対に、出生数は減少の一途をたどっており、2053年には日本の総人口が1憶人を下回る見込みです。日本の総人口とともに労働力人口も同様に右肩下がりとなるのは大きな社会問題となっています。

2025年問題との違い

2025年問題とは、団塊の世代が75歳以上になることで、高齢者人口の割合が増える影響で想定される社会保障制度の課題です。団塊の世代とは、第一次ベビーブームの時期(1947~1949年)に生まれた世代のこと。この3年間に生まれた人口はおおよそ800万人にのぼり、2022年の出生数の約77万人と比較すると人口数が激減していることが明らかです。

団塊の世代が現役を引退して介護や医療を受ける側になることで、日本の社会保障費用が逼迫するとともに、支え手となる若者世代の負担が増してしまいます。この人口バランスの悪化が、2025年問題の大きなトピックとなっているのです。

2040年問題とは

2040年問題とは、65歳以上の割合の加速度的な増加と、労働力人口の大きな減少が同時におこり、社会保障制度の維持や国内経済の成長が危ぶまれる問題の総称です。

2040年代には、団塊の世代の子ども(団塊ジュニア世代)が65歳を迎えます。団塊ジュニア世代の人口は団塊の世代に次ぐ割合です。高齢者の割合が一気に増加するとともに、労働力人口が大幅に減少する事象が「同時に」起こる点が、2030年問題との違いといえます。

2030年問題の社会への影響

2030年問題が社会に与えるとされる影響には、次のような課題があります。2030年問題の課題を一つずつ取り上げて解説します。

  1. 高齢化による労働力人口の減少
  2. 労働環境の変化
  3. 社会保障費(社会保険料・医療費)の高騰化
  4. 介護・運送業など特定業界の人手不足
  5. 日本経済の衰退

高齢化による労働力人口の減少

少子高齢化が進むと、高齢者が増えると同時に生産年齢人口(15-64歳)が減少していきます。生産年齢人口は2020年で約7,300万人となり、2030年には約6,700万人になる予測で、5年間で約600万人の減少見込みです。

また、2018年に集計された労働力人口の予測集計では、2030年の労働需要は約7,000万人。対して労働供給は約6,400万人であり、640万人の人材不足になると予測データが公表されています。この需要と供給バランスの悪化を背景に、さまざまな企業で人材不足の問題が加速していくでしょう。採用競争力の低い企業は淘汰され、企業の存続も危ぶまれると考えられます。

 労働環境の変化

労働力人口が減少すると人材不足によって労働環境に変化がおきます。人材不足によって対応ができない案件が増えたり、日常業務が後手に回り残業が増えてしまったり、少ない人員での運営を余儀なくされる企業も増えてしまうでしょう。

早期に対策を講じなければ既存社員にかかる負担も増加し、健康被害やメンタルヘルス不調が起きたり、離職につながったりするリスクも高いです。また労働環境の変化に適応するため給与や福利厚生を見直した結果人件費が高騰していく企業が増えると予測されています。

社会保障費(社会保険料・医療費)の高騰化

人口割合の多い団塊世代や、団塊ジュニア世代が高齢者になるにつれて、年金や医療、介護などの社会保障費は右肩上がりに増加。社会保障費を賄う財源の一部は税金になるため、社会保険料をはじめとする税金も増加していく可能性が高いです。

企業努力で給与を増やしたとしても、税金が増えれば社員の手元に残る可処分所得の増加につながりません。2022年の国の調査を見ると、現役世代の世帯における税金の控除を示す非消費支出は3.6%増加し、可処分所得は1.3%減少しています。

高齢者の社会保障費は必要経費であり、容易に減らすことは難しいでしょう。現行の仕組みでは、財源となる現役世代の税金負担が増えていくと予測されています。

介護・運送業など特定業界の人手不足

すでに各業界で人材不足の課題が顕在化しているなか、次の業種がとくに人手不足といわれています。

  • 医療や介護
  • 運送
  • 建設
  • IT
  • 観光や航空

医療や介護業界では、2025年に団塊世代が75歳を迎えるにあたり、医療や介護利用者が大きく増える影響が大きいでしょう。看護師や介護士の需要が高まる一方で、人材の供給量が追いつかず、外国籍人材の起用やDXによる業務効率化が急務となっています。

2030年にも適正な人数の確保にはいたらず、満足のいく医療や介護の提供ができなくなると予測されているのです。また、運送業や航空業界では、パイロットやドライバーだけでなく整備士の不足も大きな課題です。課題解決に向けて、自動運転技術や自社教育の強化などに取り組む企業も増えています。

しかしこのまま人材不足が解消されなければ、飛行機の便が少なくなったり、物を希望のスケジュールに運送できなかったりするなど、日常生活に支障が出る可能性も高いでしょう。

日本経済の衰退

高齢化が加速して生産年齢人口や労働力人口が減少していくと、目の前の業務に追われるあまり、ビジネスチャンスを逃してしまうリスクもあります。イノベーションの創造を試みたり、新規事業にチャレンジしたりするための人的資源が不足すれば、やがて日本経済は衰退の一途をたどるでしょう。

さらに、社会保障費の財政状況が悪くなっていくにつれ、現役世代や企業の負担が増加。物価高の影響で消費も消極的になり、日本の経済が活性化する兆しは未だ見えていません。また世界経済の成長率予測でも、日本は2010年から2030年にかけて、世界シェアは2.5%減少し、成長率は1%未満になる見込みです。

アジアの先進国ではインドや中国の経済動向が注目され、日本への注目度は下がっているため、世界は日本への投資を控えている現状といえます。

2030年・2040年問題の解決策とは?企業が検討すべきテーマ

2030年問題、2040年問題における解決策として、複数の議題を検討する必要があるでしょう。記事の後半では、2030年問題に取り組むきっかけとなり得るキーワードを10個取り上げてご紹介します。

  1. 働き方改革の対応
  2. 成果主義・ジョブ型雇用の検討
  3. リスキリングの実施
  4. 非正規雇用の待遇改善
  5. フリーランス・副業など多様な働き方の受入れ
  6. DX・デジタル化推進
  7. DEI推進
  8. グローバル対応
  9. 人的資本経営
  10. ESG投資やSDGs

働き方改革の対応

働き方改革は、少子高齢化にともなう生産年齢人口の減少や、育児や介護と両立しながら働くなどの働き方ニーズの多様化を受けて始まった取り組みです。働き方改革がはじまる2019年以前には、次のような課題がありました。

  • 長時間労働による健康被害
  • 育児や介護と仕事の両立が困難
  • 非正規雇用者への劣悪な処遇

上記の課題を解決するため、法整備や企業制度の見直しを推進すべく、働き方改革関連法案が整備され、次のような効果が期待されています。

  • 育児や介護仕事の両立によって長期的な労働力の確保
  • 心と体の健康が保ちやすく労働効率が上がる
  • 非正規雇用者の貢献度が上がる
  • 労働者にとって魅力的な企業になり、新規採用が進みやすくなる

働き方改革関連法案のすべてを整備できる企業は、多くないでしょう。しかし、社員が健康でやりがいをもって働ければ、生産性向上にくわえて長期的な労働力の確保につながります。自社の社員にとってどのような制度が必要かを考慮し、できるところから整えていくとよいでしょう。

成果主義・ジョブ型雇用の検討

ジョブ型雇用とは、職務内容(ジョブ)を明確に定義し、ジョブに紐づいた人材要件のもとで雇用をする人材マネジメント手法を指します。ジョブ型雇用では次のような効果が期待できます。

  • 業務内容が明確なため評価がしやすい
  • 特定業務のスペシャリストを育成できる
  • 人件費を必要な部分にあてられる

特定の職務内容に特化することで、成果に応じた客観的な評価を実施しやすくなるのがジョブ型雇用のメリットです。また、達成度によってインセンティブを設ければ、社員のモチベーションアップにもつながり、想定以上の成果を期待できるでしょう。

ジョブ型雇用を活用できると成果を正当に評価できるため、成果主義に移行しやすいのも大きなメリットです。現状の制度とジョブ型雇用制度をバランスよく取り入れられれば、柔軟に評価できる人事制度が構築できます。

リスキリングの実施

リスキリングとは、将来的に事業で必要となる知識やスキルを社員が主体的に学ぶ取り組みです。終身雇用制が崩れ、従来のメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用の必要性が増すなかで、先々の事業戦略において求められるスキルや技術も変化しています。

リスキリングは、企業が社員に対して一方的に教育機会を提供するのではなく、社員が主体的に必要な学習テーマを選択します。また、リスキリングは「もともとあるシステムや業務に関連する知識やスキル」ではなく、「現状できる人がいない」業務に必要な知識やスキルを習得させる点で、従来の人材教育とはまったく異なります。

2030年問題や2040年問題の人材不足や、不確定要素の高い社会に適応するには、リスキリングをとおして個々の力を最大化し、生産性を高める姿勢が重要となるでしょう。

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非正規雇用の待遇改善

2030年問題および2040年問題の人手不足に向きあう際非正規雇用者(パート・アルバイトなど短時間労働者や契約社員、いわゆる有期雇用労働者、そして派遣社員を指す。正社員と同様に貴重な労働力として重視すべき存在)の存在は企業にとってますます重要になるでしょう。

働き方改革のなかで「同一労働同一賃金」が施行され、非正規雇用の待遇改善が促されたことにより、雇用形態問わず多様な人材が活躍できる環境づくりが進められてきました。しかし、非正規雇用と正規雇用のあいだの溝は埋めきれておらず、引き続き処遇改善に取り組む必要があるでしょう。

今後もますます働き方ニーズは多様化し、子育て世代やシニア層をはじめ、プライベートと仕事のバランスを重視する流れは続くでしょう。また新卒入社した会社に一生勤めあげるのではなく、ライフイベントにあわせて、非正規雇用と正規雇用を行き来する人も増える見込みです。

さまざまな人材のニーズを満たし、継続的に雇用し続けるためには、福利厚生や教育制度の充実はもちろん、正社員との不合理な待遇差をなくす企業努力が必要でしょう。

フリーランス・副業など多様な働き方の受入れ

2030年問題と2040年問題の人手不足に打ち勝つためには非正規雇用だけでなく、フリーランスや副業人材の活用も重要なテーマです。働き方が多様化するなかで正社員以外の働き方ニーズが増加傾向となっています。

フリーランスや副業人材の活用は、企業の人手不足を解決する方法として有効です。見方を変えると、日本の経済状況や個人の財政状況が冷え込んでおり、企業が副業を認めざるを得ない状況ともいえるでしょう。

正社員でまかないきれない業務をプロのフリーランスに発注したり、社内副業制度をつくって自社内またはグループ企業内で人材を行き来させたりするといった、副業やフリーランスに対する柔軟な制度を構築できれば、人材確保や企業イメージの向上、あらたなイノベーションが促進されるきっかけにもつながるでしょう。

DX・デジタル化推進

将来的な労働力人口減少の課題を考慮するとAIの活用や各種業務の自動化であるRPA、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進は必須のテーマいえます。なお、混同されがちなDXとデジタル化には、次のような違いがあります。

  • DX:デジタル化を活用してあたらしいビジネスモデルを生み出す
  • デジタル化:ツールなどを活用して業務を自動化、効率アップを図る

DX、デジタル化を進めていくと次のようなメリットが期待できるでしょう。

  • 業務効率・生産性の向上
  • 働き方改革の推進(残業時間の削減やリモートワークなど)
  • 将来的な人材不足に耐えられる(少数精鋭で運営できる)
  • 企業価値の向上

DXを進めるにはまず社内のデジタル化を進めていくと同時に、社員に対する教育が必要不可欠です。単にデジタル化のツールを導入するのではなく、IT周辺の基礎知識を体系的に学び、技術を使いこなせる人材育成が急務となっています。なお、先の章で取り上げたリスキリングでは、DX関連の学習を主要テーマとして取り上げる企業が圧倒的に多い現状です。

DEI推進

DEIとは「ダイバーシティ」「エクイティ」「インクルージョン」の略です。

  • ダイバーシティ:年齢・性別・国籍・価値観など「多様性を尊重できる組織」
  • エクイティ:誰もが社内の情報やシステムを活用して挑戦できる「公平性」
  • インクルージョン:個性を発揮して主体的に経営に参加できる「包括性」

さまざまな社会課題を乗り越えて企業が中長期的に成長し続けるためには、DEI推進が欠かせません。DEI推進は、次のようなメリットも期待できると考えられます。

  • 多様な人材を生かせる環境を整えることで、多様な人材による議論が活発化してアイデアやイノベーション創出につながる
  • 時代の変化に対応できる企業競争力の強化
  • 採用競争力が高まり、母集団形成に寄与する

DEI推進に取り組むきっかけとして、経済産業省による「ダイバーシティ経営企業100選」や、女性活躍推進法のえるぼし認定の取得を目標に入れてもよいでしょう。

グローバル対応

日本経済の縮小や人手不足の課題解決の手段として海外に拠点を設けて人材の確保や利益向上を目指す企業も増えています。企業の海外進出には、次のようなメリットがあるのです。

  • マーケティング力の向上
  • ブランドイメージの向上
  • 人材確保と人件費の削減
  • 原材料費の削減

物価高や為替の影響で人件費が高くなる国もあるでしょう。しかし海外進出によってあらたな市場を開拓したり、世界基準のマーケティングノウハウが得られたりする点は魅力です。

しかし、企業のグローバル化においては、言葉や文化の違いはもちろん、法律の違いも考慮しなくてはなりません。2030年問題や2040年問題の抜本的な解決策としてグローバル化が適切かどうか、各企業内で議論し、慎重に判断をする必要があるでしょう。

人的資本経営

人的資本経営とは、「人材を企業の資本」としてとらえる人材マネジメント手法です。人材を資源ではなく、投資対象の資本として捉える点で、従来の人事管理とは異なります。労働力が急増しない以上、限りある人的資本に投資し、人的資本の価値を最大化することが課題解決の一歩となるはずです。

人的資本経営は、日本のみならず全世界で注目されるテーマであり、日本経済のさまざまな課題に打ち勝つために必要不可欠な取組といえます。DEIや非正規雇用の待遇是正、フリーランスや副業人材の活用も、広い目線で見れば人的資本経営の取組といえるでしょう。

限られた労働力を最大限に生かすため、人的資本に積極投資しながら企業の存続を図る視点が求められているのです。

ESG投資やSDGs

ESG投資とは、「Environment=環境」「Social=社会」「Governance=ガバナンス」の略で、環境や社会に配慮した企業経営を行っている企業に投資すること。また、SDGs(Sustainable Development Goals)とは、「誰ひとり取り残さない持続可能な世界を目指す国際目標」として、2015年に国連サミットで採択された世界基準の目標を指します。

2030年問題が課題となっている環境下で、日本企業が継続的に成長していくには、全世界が共通テーマとして掲げているESG投資やSDGsにも目を向ける必要があります。2030年問題を直接的に解決するという意味ではないものの、ESG投資やSDGsは、中長期的な企業成長に外せないキーワードです。

2030年問題と向き合い人材育成に取り組もう

2030年問題に対処していくには、「人は投資するべき企業の財産である」という人的資本経営の概念を基本とし、「社員の成長=企業の成長」ととらえて、ともに成長できるような教育体制や働く環境づくりに取り組むことが重要です。

2030年や2040年の近い将来に向けて、着実に社会課題は顕在化して存在感を増してくるでしょう。同時に、目まぐるしいスピードで技術革新は進むため、DX人材や高度専門人材の育成が急務となります。

先々の社会課題を乗り越え、企業が成長するために、社員が自発的な学びを行う仕組みを取り入れることをオススメします。とくに、時間や場所にとらわれず学習が可能な、eラーニングシステムを活用するとよいでしょう。

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