「内定者研修における交通費の考え方がわからない」
「内定者はまだ社員ではないので、賃金や交通費は支払う必要はないのでは」
内定者研修を予定している人事や研修担当者のなかには、このように悩まれている人も多いのではないでしょうか。一般的に、内定者は労働者と見られるため、内定者研修において賃金が発生すると考えられます。しかし交通費は法律上の支払い義務がないため、企業や状況によって検討する必要があるでしょう。
本記事では、内定者研修における交通費に関して、ケーススタディをもとに検討すべき事項を解説します。
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資料をダウンロードする内定者研修の交通費は会社が支給すべきか
結論内定者研修への参加が強制であれば、会社が日当や交通費を支払うのが望ましいです。そもそも内定者とは、正社員として入社が予定している立場です。法律の用語で表現すると、内定者と企業の間には、「始期付解約権留保付労働契約」が発生している状態となります。
企業は、研修の内容によって研修費や交通費の負担者を決めます。研修の内容が実務につながる内容であれば、会社が負担するのが一般的です。また、遠方から研修に参加する内定者は、交通費の負担が気がかりになる人も少なくないでしょう。そのため、会社と個人のどちらが費用を負担するのか、事前に連絡しておくと親切です。
内定者研修と交通費に関して考慮すべき事項
内定者研修と交通費に関して考慮すべき事項は、以下の4つです。内定者の立場と研修内容のポイントについて、順に解説します。
- 内定者は労働者かどうか
- 始期付解約留保権付雇用契約かどうか
- 研修は業務として強制参加かどうか
- 交通費(通勤手当)に支払義務がある
内定者は労働者かどうか
まず確認すべき事項は、内定者が労働者にあたるのかという点。労働者であれば、労働の対価として賃金支払いの義務が発生し、研修交通費といった業務に関連性の高い費用支払は、会社負担が一般的となるでしょう。
なお、労働基準法の賃金支払い五原則(労働基準法 第二十四条 賃金の支払)には、「賃金は、通過で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。毎月一回以上、一定の期間を定めて支払わなければならない。」と定められており、法律で賃金支払いの義務が明記されています。
すなわち内定者が労働者と同じであると考えるならば、内定者に対しても賃金や研修交通費を払うのが一般的と解釈できるでしょう。
始期付解約留保権付雇用契約かどうか
始期付解約留保権付雇用契約とは、内定者と企業との間で交わされる労働契約(雇用契約)の一種です。一般的には4月1日を就業開始の日として、就業開始までは契約を取り消せるという内容となっています。
企業は内定通知を出した時点で、法的には始期付解約留保権付雇用契約が適用され、内定者のことを労働者として扱います。労働者には解雇権濫用法理がはたらくため、一方的な内定取消しなどは認められていません。ただし、「留保権付」とあるように、企業側が内定を取り消す権利も認められています。
たとえば、内定者が学校を卒業できなかったり、病気や怪我を患ったりして正常に勤務できないなど、社会通念上相当として是認されるケースに限っては内定の取り消しが認められるのです。労働契約が成立していれば、内定者を労働者と考え、労働基準法などをベースに判断する必要があると理解しておきましょう。
研修は業務として強制参加かどうか
次に検討すべきは、研修が強制参加かどうか。研修が強制参加で、業務上義務づけられていれば労働時間とみなされるため、賃金が発生します。企業が任意参加といって強制しないものでも、内定者が断れない雰囲気であり、事実上は強制されている場合は労働時間になるので注意が必要です。
厚生労働省によると、そもそも労働時間とは、”使用者の指揮命令下に置かれている時間のことを指す”と定義づけされています。(出典:労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い|厚生労働省)
また、研修や教育訓練の取扱いについて、以下のように明記されています。
”研修・教育訓練について、業務上義務づけられていない自由参加のものであれば、その研修の時間は労働時間に該当しない。しかし、研修・教育訓練への不参加について、就業規則で減給処分の対象とされていたり、不参加によって業務を行うことができなかったりするなど、事実上参加を強制されている場合には、研修・教育訓練であっても労働時間に該当する”
(出典:労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い|厚生労働省)
研修が労働時間に該当する事例
①使用者が指定する社外研修について、休日に参加するよう指示され、後日レポートの 提出も課されるなど、実質的な業務指示で参加する研修。 ②自らが担当する業務について、あらかじめ先輩社員がその業務に従事しているところ を見学しなければ実際の業務に就くことができないとされている場合の業務見学。(出典:労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い|厚生労働省) |
つまり、強制参加の内定者研修に関しては労働時間とみなし、企業が交通費を支払うのが一般的と解釈されます。
交通費(通勤手当)に支払義務があるかどうか
通勤手当の支払いは、法律上義務なのかという点も考えてみましょう。結論、交通費は賃金とは異なり、企業から労働者への支払い義務はありません。(参照:通勤手当について|厚生労働省)
労働時間には、労働の対価として賃金を支払う必要があります。しかし、交通費は法律上、企業が負担する義務はありません。しかし、通勤交通費は通常、労働の対償として支払われる賃金と解釈をして社会保険計算には含みます。
また、交通費は義務ではないものの、9割近い企業が支給しているのが現状です。この前提に立つと、やはり内定者にも交通費を払うべきと解釈できます。
内定者の交通費に関するケーススタディ
ここでは、内定者研修や内定者懇親会での交通費、内定者が内定辞退した場合の払い戻しに関して、ケーススタディを用いて解説します。賃金支払いに関する考え方は基本的に同じでも、内定式や懇親会については企業によって対応が異なるのでぜひ参考にしてください。
内定者研修を任意にすればよい?
内定者研修が強制参加であれば、賃金支払いが義務になるという前提に立てば、「内定者研修を任意参加にすれば、何も支払わなくていいのでは」と考える方もいるでしょう。しかし、「任意参加で問題ありません」と内定先企業から研修の案内が届いても、内定者は断りづらいと解釈するのが一般的であり、ある程度の強制力が発生するのは必然でしょう。
厚生労働省の「労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い」にも、事実上参加を強制されている場合には、労働時間に該当すると記載があります。内定者は労働者であり、労働者に研修参加を義務づければ賃金が発生し、交通費を支払うのが一般的と解釈する流れです。
内定式・懇親会も交通費を払うべき?
そもそも交通費に関しては、法律上の支給義務はありません。ただし研修を行うのであれば、交通費を会社が負担するのが一般的といえます。内定式や懇親会のケースで考えるべきポイントは、実施目的における業務との関連性です。業務と関連がないのであれば、交通費の支給は不要と考えていいでしょう。当然、日当などの賃金も必要ありません。
とはいえ、無賃で参加させるよりも、内定式の日は少し豪華なお弁当を用意したり、立食パーティーを準備したりする企業が見受けられます。賃金支払いの有無を問わず、企業の内定者に対する姿勢が表れる場面と考えられるでしょう。
内定辞退したら払い戻しさせてよい?
内定者が内定を辞退した場合でも、研修の日当や交通費の払い戻しを強要してはいけません。労働基準法の第十六条(賠償予定の禁止)には、労働契約が破棄されたからといって、違約金や損害賠償を求めることを禁止すると記載されています。つまり、労働者と同じ扱いをする内定者が内定辞退しても、払い戻しや違約金を請求するのは違法行為に該当するのです。
内定辞退をした人のなかには、入社手続きにかかった費用の返還を求められたというケースも存在しますし、過去に内定辞退者に対して支払いを命じた判例もあります。調停費用や対応に割かれる時間などを考慮すると、払い戻しさせるのは得策ではないでしょう。
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資料をダウンロードする内定者研修にかかる費用
内定者研修では、基本的に労働者への研修と位置づけられるため、研修費用を企業が負担するのが一般的という見解です。実際に内定者研修を行った際に必要な費用をまとめました。それぞれの概要を詳しく解説します。
- 研修の実費
- 賃金(日当)
- 交通費
研修の実費
まずは研修の実費です。研修講師に支払う費用や教材費、会議室のレンタル料や印刷費などがあります。内定者研修を完全に労働時間と認識するのであれば、研修を実施するのにかかる費用はすべて企業が負担するのが一般的です。内定者は、企業との間で雇用契約が結ばれていると考えるので、入社後の研修や業務用のパソコンを支給するのと同じ考え方で問題ありません。
賃金(日当)
研修への参加を強制するのであれば、内定者への賃金は必要です。支払金額に関しては、実際に参加した時間数だけ支払えばよいと考えられます。4月1日から正式に社員として雇用が開始されてからの月給を日割りするのではなく、研修した時間分の賃金を支払う必要があるのです。
支払いのタイミングは、各企業の賃金ルールや就業規則に準ずるので、会社の規則にそって設定しましょう。また、支払い方法には現物支給や当日払い、初回の給与と合算などがあるので、自社にとって最適な方法を選択し、内定者へ事前共有しましょう。
交通費
始期付解約留保権付雇用契約があるため、交通費を支給するのであれば、企業が負担します。一般の社員に対しても交通費を支給するのと同様に、内定者も労働者と考え、同じように交通費支給を行いましょう。内定者研修に遠方から参加する人もいるときは、宿泊先の手配や宿泊代の負担も必要です。
交通費負担も考慮して、事前に参加者の在住エリアの再確認を行い、場合によってはオンライン研修も組み合わせて企画するとよいでしょう。また「必ず領収書を取得する」「最安で交通費を支払うのであれば、研修会場までの経路に注意する」など、諸ルールを決めて共有して下さい。
内定者研修の交通費支給のルールを整備しよう
内定者は、始期付解約留保権付雇用契約における労働者という位置づけになるため、研修に参加した時間の賃金支払は義務となり、交通費支払は任意となるものの一般的には企業負担のケースが多いです。
ただし、内定式や懇親会など、集まる目的が研修や実務を目的ではない場合は、交通費支給を不要とするケースもあります。内定者への説明を含めて、どのような場合に交通費を支給するのかを社内で検討することが大切です。
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