エバンジェリストとは?役割や仕事内容・登用のメリットを紹介

  • 人材育成

2024年6月28日(金)

目次

IT業界における比較的新しい職種として注目されているエバンジェリスト。営業や広報といった、情報発信を行う既存の職種とはさまざまな点が異なります。エバンジェリストという言葉は知りながらも、具体的な役割やどのような人材要件なのか理解しきれていない人も多いのではないでしょうか。本記事では、エバンジェリストの定義や役割、仕事内容、エバンジェリストを設けるメリットや育成方法などを網羅的に解説します。

エバンジェリストとは

エバンジェリスト(evangelist)とは、IT業界で注目されている比較的新しい職種、またはその役割を担っている人材のこと。語源は布教活動を行う「伝道者」であり、高度で複雑なIT技術やトレンド、最新テクノロジーの知識を生かし、中立の立場でユーザーにわかりやすく伝える職種の名前として定着しました。

1984年、Apple社が個人用PCの普及を目的に、その必要性や他社製品との違いなどを説明・宣伝する専門の役職として「テクニカルエバンジェリスト」という役職を作ったのです。さらにMicrosoft社がエバンジェリストという肩書きを作り、2000年前後に職種として一般的に認知されるに至りました。

エバンジェリストが広まった理由

エバンジェリストが広まるきっかけとなった2つの理由を解説します。

マイクロソフト社による認知拡大

エバンジェリストが広く認知されたきっかけのひとつに、マイクロソフト社での導入事例が挙げられます。同社は開発者をはじめとするITエンジニアたちを対象に、自社の技術や製品を理解してもらうためエバンジェリストを配置しました。

業界内で影響力を持つITエンジニアや大手ユーザー企業に個別で啓蒙活動を行ったほか、イベントやセミナーでの講演、執筆活動など幅広い領域で活動したことで、多くの人々にその存在が知られることになったのです。そしてマイクロソフト社の地道な活動が実を結び、エバンジェリストという職業が認知されるようになりました。

ITの技術革新

ITが急速に技術革新を遂げたことも、エバンジェリストが広がる要因のひとつ。ビジネスの成長には、ITの積極的な活用が必要不可欠です。また、それを実現するには、つねにアンテナを立てて新たなテクノロジーを発見・理解し、自社の状況に合わせて組み入れる必要があります。

しかし、ITの技術革新の変化量とスピードは凄まじく、多くの人が変化に適応しきれない状態となりました。この課題を解決するため、IT技術が生み出された経緯や、活用方法をわかりやすく伝える役割が必要になったのです。

エバンジェリストの役割

エバンジェリストの主な役割は、高度化・複雑化していくIT技術やトレンドをわかりやすくユーザーに伝え、ユーザーが抱えている課題の解決策を提案すること。企業がどんなに優れたIT技術を生み出しても、ユーザーが十分に理解できなければ、サービスの利用促進は難しいです。さまざまなサービス、技術が生み出された経緯や有用性、価値などをユーザー目線で伝えていくのがエバンジェリストの役割といえます。

営業との違い

エバンジェリストと営業は、果たすべき役割と対象となる相手が異なります。

  • 営業:自社の製品・サービスで課題解決が可能な相手や、すでに自社製品に興味を持っている見込み客が対象
  • エバンジェリスト:不特定多数のユーザーが対象。中立的な立場でIT技術や知識をわかりやすく伝えたり、啓蒙したりするのが役割

広報との違い

広報とエバンジェリストも、果たすべき役割と対象となる相手が異なります。広報は、マスメディア、株主や投資家などのステークホルダーを対象に、自社や製品・サービスについて情報発信を行うのが役割です。

広報の主な活動目的は自社と商品・サービスの認知度、ブランドイメージの向上であり、中立性・公益性が重視されるエバンジェリストとは大きく異なるとわかります。

インフルエンサー・アンバサダーとの違い

エバンジェリストはインフルエンサー・アンバサダーとも混同されがちです、しかし、それぞれ性質が異なります。インフルエンサーは、自身のフォロワーを対象として発信を行い、自身の影響力や信頼性を武器に、ユーザーの購買意思決定を後押しします。エバンジェリストのように専門性や問題解決能力は必須ではなく、信用によって人を動かす傾向にあるのです。

アンバサダーは企業公認の宣伝大使を意味します。消費者から認知度の高い従業員や著名人、芸能タレントなどを起用し、企業の製品・サービスを宣伝する点でエバンジェリストとは異なるのです。

エバンジェリストの5つの仕事内容

エバンジェリストの主な仕事は以下の5つです。

  1. プレゼンテーション
  2. 個別デモンストレーション
  3. インナーマーケティング
  4. 製品・サービスの研究や資料作成
  5. メディアやSNSの発信

プレゼンテーション

さまざまなシーンで行うプレゼンテーションは、エバンジェリストの最も代表的な仕事といえます。新製品発表会やIT関連などのイベント、自社や業界が開催するセミナーなど、プレゼンテーションを行う場は多岐にわたり、大人数の前で登壇して実施する形式が一般的です。

専門家としての知見にもとづき、業界や市場を俯瞰した中立的な視点で、自社の保有する技術や製品・サービスの特徴、サービスが生まれた経緯や価値、有用性などをわかりやすく伝えます。目的は、プレゼンテーションによって対象の価値を理解した人が、購入や申込みなど具体的なアクションを起こすことです。

個別デモンストレーション

製品・サービスの導入を検討しているユーザーや企業、またはすでに導入している相手に対して、個別デモンストレーションを行うのもエバンジェリストの仕事です。プレゼンテーションが言葉による情報発信であるのに対して、デモンストレーションは実際の製品・サービスを見せたり実演を交えたりしながら説明します。

購入や申込みを検討している見込み客であれば、デモンストレーションを見て、導入後の効果や使用感などを具体的にイメージできるでしょう。また、すでに導入している場合は、使用中に発生する問題の解決方法や、さらなる活用方法などを知る機会になります。いずれの場合でも、ユーザーや企業それぞれの内情に合わせて、疑問・課題を解決できる専門知識や課題解決能力、提案力が求められるのです。

インナーマーケティング

社内向けに行うインナーマーケティングも、エバンジェリストの仕事のひとつ。インナーマーケティングとは、社内向けに行う啓蒙活動のこと。具体的には、社内会議や研修でプレゼンテーションを行い、製品・サービスの特徴や価値、優位性、ブランドイメージなどを伝えます。

各従業員が持つ分野別の専門知識にくわえ、他部署が持つ情報、ユーザーや社会全体からの視点など、新たな視点をもたらします。従業員一人ひとりの意識や業務クオリティの向上が期待できるでしょう。社内の多様な従業員の意識や知識を底上げし、企業全体の生産性や効率を高めるのもエバンジェリストの重要な役割といえます。

製品・サービスの研究や資料作成

情報発信だけでなく、製品・サービスの研究や資料作成もエバンジェリストの重要な仕事です。つねに質の高い情報発信を行うためには、製品・サービスの飽くなき研究や知識が必要不可欠なためです。IT業界はほかの業界に比べて変化が激しく、最新情報に対してつねにアンテナを立てて学び続ける姿勢が求められます。

またさまざまなシチュエーションのユーザーや企業をサポートするために、専門性を磨き続け、知見をアップデートし続けなければなりません。製品・サービス・トレンド・最新情報などを研究し続け、つねに最新情報を資料に落とし込み、自身が行う活動や情報発信に生かしていくことが大切です。

メディアやSNSの発信

エバンジェリストは、情報発信や啓蒙が主な役割であり、その活動領域はメディアやSNSなどの非対面の場でも同様です。SNSはイベントやセミナーとは全く異なる層に幅広くアプローチできるため、新たな見込み客の創出が期待できます。SNSは拡散力が高く、自身の発信がさらに広がる可能性や、影響力・ブランドイメージの向上などにつながる可能性もあります。

多くの人たちの目に触れるという意味では、メディアへの露出も同様の効果が期待できます。すぐに購入・申込みにつながるような直接的な活動ではないものの、メディア露出も重要な取組みのひとつでしょう。

会社がエバンジェリストを活用する3つのメリット

会社がエバンジェリストを登用・活用するメリットは以下の3つです。

  1. 消費者の信頼獲得や認知拡大
  2. 自社製品の理解促進
  3. 競合差別化や付加価値の創出

消費者の信頼獲得や認知拡大

エバンジェリストを活用すると、消費者の信頼獲得・認知拡大が期待できます。エバンジェリストの発信内容は、特定の企業の視点ではなく、あくまで中立的・俯瞰的視点であるためです。企業の発信は「その企業にとって都合の良い発信」ととらえられがちで、信憑性の担保や信頼性の獲得が難しいケースもあります。

一方エバンジェリストは特定の企業を擁護しない存在であるため、ユーザーはその公平性を信頼し、価値のある情報として耳を傾けやすくなるのです。また、そのエバンジェリストが価値ある情報を発信し続けることで、所属する企業の認知度も拡大する可能性があります。

自社製品の理解促進

エバンジェリストの活用には、社内外における自社製品の理解促進が進むメリットもあります。難解な技術や情報をわかりやすく伝えるのがエバンジェリストの役割であり、社外のみならず社内の理解も促します。社外に向けて情報発信を行う際は、特定の課題や原因、解決策などにフォーカスするため、それらを解決できる可能性がある自社の製品・サービスへの理解も深まるのです。

また、社内に向けてインナーマーケティングを実施すれば、既存社員も製品・サービスに対する理解が深まるでしょう。単にエバンジェリストという職種を導入するだけでなく、企業側がその役割や有用性を理解して適切なミッションを与えることが重要です。

競合差別化や付加価値の創出

エバンジェリストを活用すると、競合他社との差別化や新たな付加価値の創出につながる可能性があります。エバンジェリストはつねに自社製品・サービス・トレンドなどを研究し続けており、深い専門的知識を保有しているためです。

また、エバンジェリストが活躍すると自社のファンも増えるでしょう。さらに製品・会社のファンだけでなく、エバンジェリスト個人のファンになる人もいると考えられます。自社の事業がファンビジネスに変わっていくことが、競合との差別化にもつながっていくのです。

エバンジェリストの育成方法

社内でエバンジェリストを育成するためには、導入前の計画からしっかり設計する必要があります。具体的な手順とポイントは以下のとおりです。

  1. エバンジェリストの役割・仕事内容をしっかり定義する
  2. そこから逆算して必要なスキルを洗い出す
  3. 適した人材を選出する
  4. 育成プログラムを設計する

まったく知識がない人より、製品・サービスの事業開発者や、講師経験のある技術者など、製品・サービスに関する基礎的な知識や技術を有している人を起用することをオススメします。あらかじめ定義した役割、仕事内容や必要なスキルにもとづき、育成プログラムを自社で組み、育成に取り組みましょう。

エバンジェリストに必要な4つのスキル

エバンジェリストになるためには、以下4つのスキルや要素が求められます。

  1. ITや製品・サービスの専門知識
  2. プレゼンテーション能力
  3. 対話能力
  4. 学び続ける力

ITや製品・サービスの専門知識

エバンジェリストには、ITそのものや業界・トレンドの知識、自社の製品・サービスに関する専門知識が必要不可欠です。高度・難解な技術や情報をわかりやすく伝えるには、エバンジェリスト本人が正しく理解していなければなりません。

また、中立性や俯瞰的であることを求められるエバンジェリストの専門知識は、深さだけでなく広さも求められます。IT業界全体のトレンドや、最新情報・最新テクノロジーなど、幅広い知識と専門的な知見がそろってこそ説得力が生まれるでしょう。

くわえて、専門性の高い情報をつねにアップデートし続けなくてはなりません。現在活躍しているエバンジェリストは、もともと知識や技術があり、知的好奇心の高いエンジニア出身者が多い傾向にあります。

プレゼンテーション能力

エバンジェリストには高いプレゼンテーション能力も求められます。ユーザーや企業担当者の理解を深めるだけでなく、心を動かして行動を促す必要があるためです。プレゼンテーションには、資料・画像・動画などを用いた説明・発表形式があります。聴講者は視覚や聴覚からさまざまな情報を受け取るため、ただ淡々と説明するだけでは不十分です。

プレゼンテーションスキルには、聴講者を惹きつける声のトーンや抑揚などの話し方、表情やジェスチャーなどのほか、広義では聴講者の注目を集められる資料作りのスキルも含まれます。エバンジェリストは説明・啓蒙が主な仕事のため、相手が思わず聞き入り、共感するようなスキルを身につける必要があるでしょう。

対話能力

エバンジェリストは対話する能力も求められます。デモンストレーションやインナーマーケティングのように、相手が少なく密にコミュニケーションを取るシーンもあるためです。大人数に向かって一方的に話すプレゼンテーションに対して、デモンストレーションやインナーマーケティングは相手の課題を発見し、理解・解決させることが目的となります。

そのため情報を引き出すヒアリング能力や、相手に共感を示すための傾聴力、相手の立場や理解力に合わせて伝える能力などが欠かせません。デモンストレーションは社外の見込み客やユーザー、インナーマーケティングは自社の従業員と、まったく立場の異なる人を相手にするため、相応の対話能力(=コミュニケーション)が求められます。

学び続ける力

エバンジェリストには、学び続ける力と向上心も欠かせません。エバンジェリストが扱う情報は一度理解したら終わりではなく、目まぐるしい速度で変化・進化し続けます。つねに有益な情報を提供し、最適解を提案し続けるためには、最新テクノロジーやITトレンドの知見が必要不可欠です。

ほかの人がまだ知らない、あるいは注力しきれていない領域を学ぶことが、差別化につながるケースも少なくありません。また対象が製品・サービスの場合は、ユーザーの視点を知るために自らそれらを使ったり、分析したりすることで知識の深さを磨く方法もあるでしょう。エバンジェリストであり続けるためには、つねに幅広い情報にアンテナを立てつつ、手足を動かして学び続ける必要があるのです。

エバンジェリストと親和性の高い職種

エバンジェリストの起用・育成をショートカットするためには、親和性の高い以下の2職種から人材を抜擢するのがオススメです。

  1.  ITエンジニア
  2. コンサルタント

ITエンジニア

ITエンジニアは、エバンジェリストと親和性の高い職種のひとつです。ITエンジニアが持つ開発スキル・システムの運用能力がエバンジェリストの業務に役立ちます。エバンジェリストには高いプレゼン能力やコミュニケーション能力も求められるため、上流工程であるプロジェクトマネージャーの経験があるITエンジニアは、さらに適性があるでしょう。

技術者としてITエンジニアを経験してきた人材であれば、登用後の育成でプレゼン能力やコミュニケーション能力を確認するのがおすすめです。

コンサルタント

IT関連のコンサルタントもエバンジェリストと親和性の高い職種といえます。コンサルタントに必要なプレゼンテーション能力・対話力・問題解決能力などがエバンジェリストの業務に役立つためです。ITコンサルタントであれば保有している知識や経験にも親和性がある可能性が高く、さらに適性があるでしょう。

一方で、コンサルタントは特定の商品・サービスの普及よりも問題解決に重きを置いているため、研修やeラーニングなどをとおして必要な知識を補う必要があります。

エバンジェリストになるには

エバンジェリストになるための必須資格や明確なルートが存在するわけではないものの、IT系の学科で専門知識を学ぶ方法や、IT系の企業に就職するのがモデルケースといわれています。エバンジェリストは直接着任できる職種ではなく、必要な知識と経験を蓄積した人が任命されるというキャリアパスが一般的なためです。

たとえば、ITエンジニアやプリセールス、ITコンサルタントなどの職種に就いて経験を積むイメージです。あわせて、SNSやブログなどで新しいテクノロジーや最新情報を発信するのもよいでしょう。

エバンジェリストの役割を理解して社内育成を進めよう

年々高度化・複雑化するIT情報や自社製品・サービスをユーザーや企業にわかりやすく啓蒙するエバンジェリスト。既存の営業・広報などと異なり、中立的かつ俯瞰的立場を取る新しい役割を担った職種です。エバンジェリストは、ITエンジニアやコンサルタントなど、親和性の高い職種から抜擢し、研修など通して不足する知識・スキルを補って育成が可能です。

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