労働施策総合推進法とは?改正ポイントや罰則をわかりやすく解説!

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2024年6月20日(木)

目次

2020年6月1日、大企業へ向けて施行された労働施策総合推進法(パワハラ防止法)。2022年4月からは中小企業も含め、職場におけるパワーハラスメントの防止措置が全面施行となりました。

本記事では、労働施策総合推進法の実態や課題、改正のポイント、企業が取るべき具体的な対応などを解説します。

労働施策総合推進法(パワハラ防止法)とは?

労働施策総合推進法は、1966年に施行された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の通称です。

法律の制定時には「雇用対策法」と呼ばれていたものが、2018年の改正で、労働施策総合推進法と略されるようになりました。労働施策総合推進法は「パワハラ防止法」とも呼ばれています。

労働施策総合推進法における2019年の改正では、

  • 大企業では2020年6月1日から
  • 中小企業では2022年4月1日から

施行が定められ、職場におけるパワーハラスメント対策が義務化されました。

企業が講じるべき防止措置として、事業主の方針の明確化や相談に応じるための体制の整備、パワーハラスメントにかかる事後の対応などについて、明記されています。

改正労働施策総合推進法では、パワハラに限らずセクハラやマタハラなどに関連する法律も施行されているため、企業には各ハラスメントの対策が求められているのです。

労働施策総合推進法2019年改正の背景・目的

2019年6月に公布された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」のなかで、労働施策総合推進法も改正されました。

厚生労働省が公表する「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間でパワーハラスメントを受けたと回答した労働者は、2016年度の調査で32.5%、2020年度の調査では31.4%と報告されています。

労働施策総合推進法の改正は、こうした実態を背景に、ハラスメントのない社会の実現に向け、職場のパワハラやセクハラ対策の強化を目的として行われたものです。

2022年施行・改正労働施策総合推進法3つのポイント

2022年4月より中小企業にも施行された改正労働施策総合推進法。この法律を把握するうえで必要な3つのポイントを解説します。

  1. パワハラ防止対策を強化する条文が新設
  2. 中小企業も法令の対象に
  3. 厚生労働省が「パワーハラスメントの指針」を公表

パワハラ防止対策を強化する条文が新設

2019年の改正により、新たに「第30条の2(雇用管理上の措置等)」、「第30条の3(国、事業主及び労働者の責務)」という条文が設けられました。具体的な内容は次のとおりです。

第30条の2(雇用管理上の措置等)

第30条の2において、企業に義務づけられているのは、ハラスメントの相談を受ける体制の整備と相談者への適切な対応です。

また、労働者が相談する、もしくは企業側が受けた相談への対応に協力をした場合、それを理由に労働者を不利益に取り扱う行為も禁止しています。

第30条の3(国、事業主及び労働者の責務)

第30条の3では、努力義務として優越的言動問題(パワハラに当たる言動やそれに起因する問題)に関して国と企業、労働者が関心と理解を深める必要があるとしています。

ハラスメントの防止に向けた広報活動や研修の実施などの措置を講じ、言動に注意し、互いに協力するよう努めなければなりません。

中小企業も法令の対象に

改正労働施策総合推進法は、2020年6月から大企業で施行され、中小企業では努力義務期間を経て、2022年4月1日から義務化されました。施行年を調整しながらすべての企業が対象になった点も、法改正を正しく把握する大きなポイントのひとつです。

中小企業も大企業同様に、ハラスメントの防止対策の推進が求められています。

厚生労働省が「パワーハラスメントの指針」を公表

厚生労働省はパワーハラスメントの指針として「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(2020年1月15日厚生労働省告示第5号 )」を策定・公表しました。

この告示は「事業主が適切かつ有効な実施を図るために必要な事項について定めたもの」で企業はこの指針を踏まえ、ハラスメント防止の取り組みや措置を検討していく必要があります。

パワーハラスメント3つの定義

厚生労働省では、パワーハラスメントの指針において、職場でのパワハラがないよう、雇用管理上講ずべき措置を適切かつ有効に実施しなくてはならないとしています。

また労働施策総合推進法第30条の2第1項において明確化される、次に挙げる3つの要素をすべて満たしたものが、職場におけるパワハラであると定義しました。

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

出典:e-Gov法令検索 労働施策総合推進法第30条の2第1項

【パワハラとして定義される3つの要素】

  1. 優越的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

それぞれの定義の具体的な内容について、解説します。

①優越的な関係を背景とした言動

職場で業務を行ううえで、抵抗や拒絶が難しい状況もしくは関係性を背景にした言動です。具体的には次のようなケースが該当します。

  • 自身の上司、または自身が属する企業で自身よりも地位の高い役職者の言動
  • 自身に比べ業務上必要な知識や経験を有していて、その協力がなければ業務をスムーズに進められない場合における同僚や部下の言動
  • 自身に対し、同僚や部下が集団により、抵抗や拒絶が難しい状況に追い込んだうえでの言動

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

業務に必要ないもしくは不適切な行為を指し、なおかつこれらの行動を執拗に繰り返すことを指すもの具体的には次のようなケースが該当します。

  • 業務とはかかわりのないプライベートなことを指摘する
  • 業務の目的を大きく逸脱して注意や叱責をする
  • 業務を遂行するのに現実的ではない期限や内容を提示し、できない場合は罰則を与える

③労働者の就業環境が害されるもの

パワハラに該当する言動を受けた労働者が身体的もしくは精神的苦痛を受け、就業環境が害されること、を指すもの就業環境が害されることの判断は、①と②で挙げたような状況で、一般的な労働者が就業するのが困難になるほどの支障が出ると感じる言動かどうかを基準にします。

パワーハラスメント6つの類型と具体例

パワハラを防止するには、パワハラに該当する行為の把握が欠かせません。「パワーハラスメントの指針」では、パワハラの代表的な言動を6つに分類し、具体例を挙げています。これをもとにどのような行為がパワハラになるのか、解説しましょう。

①身体的な攻撃

労働者に対する暴行や障害などで、具体的には殴打する、足蹴りをする、労働者にものを投げつけるなど。ただし、攻撃する意思がなく、誤ってぶつかってしまい、身体的なダメージを与えた場合、身体的な攻撃には含まれません。

②精神的な攻撃

労働者の人格を否定する言動で精神的な苦痛を与えるもの。同僚や部下のいるオフィス内で業務の遂行に関して必要以上に長時間叱責をする、労働者を罵倒する内容のメールを労働者本人を含め複数人に送信するなどが該当します。

ただし、

  • 遅刻や無断欠勤など社会的ルールを逸脱する行為をくり返し、何度注意しても改善されないために一定程度強い注意をする
  • 業務内容や性質などに照らし重大な問題行動を取った労働者に一定程度強い注意をする

などは、精神的な攻撃に含まれません。

③人間関係からの切り離し

自身の意に沿わない労働者を業務から外し、長期間別室に隔離する、自宅で研修させるなどの行為です。

ただし、

  • 新規雇用者を育成する目的で別室にて研修を行う
  • 懲戒既定にもとづいて処分した労働者の復帰に際し、一次的に別室で研修を受けさせる

などは含まれません。

④過大な要求

長期間にわたり肉体的苦痛を伴う過酷な環境のもとで勤務とは直接関係ない業務を命じること。また、新卒の労働者に必要な教育を行わない状態で対応困難なレベルの業務目標を課す、業務とは関係ない私的な雑用を強制するなども含まれます。

ただし、労働者の育成目的で少し高いレベルの業務を任せる、繁忙期に通常時より多少多い業務を任せるといった場合は、過大な要求には該当しません。

⑤過小な要求

管理職である労働者を退職目的で誰でもでき得るかんたんな業務だけを行わせることまた、気に入らない労働者に嫌がらせで仕事を与えないのも過小な要求といえます。

ただし、労働者の能力に応じ、一定程度の業務内容や業務量を軽減するのは、過小な要求には含まれません。

⑥個への侵害

労働者の私的な事柄に過度に立ち入ること、たとえば、労働者を職場外でも継続的に監視する、私物を写真撮影するなど。ただし、労働者への配慮を目的として、家族の状況をヒアリングする場合は、個への侵害とはなりません。

パワーハラスメントの実態と企業が抱える課題

パワハラの実態と企業が抱える課題について、いくつかの調査結果をもとに解説します。

パワハラの実態

厚生労働省が2021年4月に発表した「職場のハラスメントに関する実態調査」では、2020年から過去3年間でのハラスメントの相談件数において、セクハラのみ減少傾向であとは変わらないという結果が公表されました。

実際のハラスメントはパワハラでは「精神的な攻撃(74.5%)」、セクハラでは「性的な冗談、からかい(56.5%)」の割合が高く、妊娠や出産、育児休業、そして介護ハラスメントでは「上司が制度利用の請求や利用の阻害をする」が多い結果です。

相談窓口の設置状況は、下記のような結果に。

  • 社内のみに相談窓口を設置(63.8%)
  • 社内と社外の両方に設置(33.3%)
  • 社外のみに設置(2.9%)

ハラスメント防止対策の取り組みとしては、「各種ハラスメントの一元的な相談窓口の設置(54.7%)」を進めているという回答が多かったものの、大幅なハラスメントの減少には至っていないのが現状のようです。

企業が抱える課題

2022年3月にエン・ジャパン株式会社が発表した「パワハラ対策実態調査2022」によると、パワハラ対策を進めるうえでの課題で多かった回答は次のとおりです。

  1. 管理職のパワハラに対する認識・理解が低い(55%)
  2. パワハラの基準・境界が曖昧(43%)
  3. 経営層のパワハラに対する認識・理解が低い(37%)

この結果から、多くの企業ではハラスメントがどのようなものか、認識が十分ではないとわかります。とくに管理職や経営層がハラスメントの定義を理解し、社内に積極的に浸透させていかなければ、法対応は難しいといえるでしょう。

労働施策総合推進法(パワハラ防止法)施行により企業が取るべき措置

厚生労働省は労働施策総合推進法第30条の2第3項において、「雇用管理上必要な措置」(同法第30条の2第1項)、「事業主による解雇やそのほかの不利益な取り扱いの禁止」(同法第30条の2第2項)の実施を目的として、パワーハラスメントの指針を定めました。

企業がこの指針に準拠するため講じるべき措置は次の4つです。

  1. 事業主の方針の明確化と労働者への周知・啓発
  2. 相談窓口の設置・周知と運用体制の整備
  3. 職場におけるハラスメントにかかわる事後の迅速・適切な対応
  4. そのほかの措置

①事業主の方針の明確化と労働者への周知・啓発

事業主いわゆる企業は、職場でのパワハラに関する方針を明確にしたうえで、労働者に対し周知と啓発の徹底を行わなければなりません。

具体的には、まず企業がパワハラの定義を理解し、就業規則を作成。ただし、通常の就業規則とは別に、ハラスメント防止専用として罰則も含めた就業規則の作成が必要です。

そして、社内報やパンフレット、自社Webサイトなどを使い周知します。なお就業規則の理解やハラスメント防止についての啓発を促すため、ハラスメント研修を取り入れるのもオススメです。

②相談窓口の設置・周知と運用体制の整備

ハラスメントの多くは、上司から部下へ行われるため、同じ部内の人間にハラスメントの相談をするのは困難です。

そこで、ハラスメント専用の相談窓口を設置します。相談窓口は社内にのみ、社内と社外、社外のみなど自社の現状に応じて適切に設置し、労働者に周知を行いましょう。

社内に相談窓口を設置する場合は、人事部、総務部、コンプライアンス担当部門などに、各部の業務を兼任する相談窓口の担当者を置く場合が多いようです。

また、担当者は相談の内容や状況に合わせて適切に対応できるよう、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)を理解しておく必要があります。顧問弁護士がいる場合、法律に準拠した対応マニュアルの作成を依頼するのも一つです。

社外相談窓口を設置する場合は、弁護士、社会保険労務士の事務所、ハラスメント対策を専門とするコンサルティング会社などに依頼するケースがみられます。

③職場におけるハラスメントにかかわる事後の迅速・適切な対応

ハラスメントを放置すると被害が拡大するリスクもあります。被害を最小限に抑えるには相談があった際、企業は迅速かつ適切な対応が欠かせません。迅速かつ適切な対応を行うには、事実関係の正確な調査が必要です。

またハラスメントの事実が明確になったら被害者へ配慮したうえで、行為者に対する措置と再発防止に向けた措置を速やかに行いましょう。

④そのほかの措置

ハラスメントが行われたと社内に広まった場合、職場にいづらくなるのは行為者だけではありません。被害者もいづらくなるため両者のプライバシーを保護できる相談窓口の体制を整備し、相談する際はプライバシーが保護される旨を社内に周知する必要があります。

また、相談したことや事実関係の確認に協力したことで、労働者が解雇および不利益な取り扱いをされないような体制づくりも重要です。そのうえで誰もが被害に遭った際には安心して相談できることを周知します。

労働施策総合推進法(パワハラ防止法)に違反した場合の罰則

企業が労働施策総合推進法に違反した場合、罰金や懲役刑、営業停止などの罰則規定はありません。

ただし、ハラスメントの内容によって厚生労働大臣が必要だと判断した際には、企業に対して助言や指導、勧告するとされています。

助言や指導、勧告に従わないと社名とパワハラの事実が公表される場合もあるため、企業の社会的信用が失われかねません罰則がないからといってハラスメントを放置しないよう、注意が必要です。

ハラスメント研修にオススメのツール「manebi eラーニング

労働施策総合推進法はパワハラ防止法とも呼ばれ、ハラスメントのない社会の実現に向け、職場のパワハラやセクハラ対策を強化することを目的として施行された法律です。

違反した場合の明確な罰則規定はないものの、場合によっては会社名やパワハラの事実が公表される場合もあるため、適切に対応しなければなりません。

しかし、ハラスメントの定義を正しく理解できていないために、ハラスメント防止対策が十分に進められていない企業も多いようです。労働施策総合推進法を遵守するためにはまず、ハラスメントの正しい知識の習得が必要不可欠でしょう。

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