企業の生産性を高めるため、社員のマルチタスク能力を高めたいと考えている人事担当者は多いのではないでしょうか。マルチタスクとは同時に複数のタスクをこなす能力。しかし本来、人間の脳は複数の作業を同時進行できないつくりになっているのです。よってマルチタスクの仕組みを正しく理解し、生産性を高める手法を複数おさえることが重要といえます。
本記事では、マルチタスクの概要や特徴をはじめ、ビジネスシーンでマルチタスク人材がいるとどんな利点があるか解説します。人材育成や研修についてお困りの方は、ぜひ参考にしてください。
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資料をダウンロードするマルチタスクとは
マルチタスクとは、複数の作業を同時に行うこと。たとえば、資料作成しながらプレゼンテーションの準備をするように、二以上の作業を同時進行する能力をマルチタスクと呼びます。しかし、人間の脳は、一つの作業しかできない構造となっています。実は、複数の事柄を脳内で即時に切り替えることにより、複数作業を「同時に」行っているように見えているのです。
マルチタスクの能力がある人は、情報収集がはやかったり、多様なタスクを同時にこなして仕事全体をバランスよく進めたりできる特徴があります。一方、多くの事柄を抱えすぎてしまい、キャパオーバーになったり、それぞれの仕事が中途半端になったりする場合も多いのです。なお、マルチタスクはもともとコンピューター用語で、同時に異なる情報処理を行うことを意味しています。
シングルタスクとの違い
マルチタスクの対義語であるシングルタスクとは、一つの作業を集中して行う状態のこと。仕事を一つずつ着実に進める性質から、コンサルティングやシステムの開発設計など、集中して考える仕事にシングルタスクが効果的といわれているのです。
また、シングルタスクは一つの作業に集中するため、マルチタスクより生産性が上がりやすいと考える見方もあります。一方、マルチタスクは複数の仕事をまんべんなく進めるため、時間を有効活用できて生産性が上がるという解釈もできるのです。
「マルチタスクはシングルタスクより優れている」「シングルタスクはマルチタスクより効率的だ」とは言い切れず、ケースバイケースでそれぞれの能力を使いわけることが大切でしょう。
ビジネスシーンでのマルチタスク例
ビジネスシーンでのマルチタスクの例は、次のとおりです。
- 会議の資料を作りながら、メールやチャットへの返信をする
- 同じ時期に複数のプロジェクトに参加する
スマートフォンやタブレットなどの普及は、マルチタスクの広がりを後押ししています。たとえば「スマートフォンのハンズフリーで電話をしながらPCでメールを打つ」「ウェビナー動画をタブレットで流しながら、PCで資料作成を進める」といった同時進行もその一つ。
ほかにも、在宅で子どもの様子を見ながら仕事の作業を行う、電車移動しながらスマートフォンでビジネスチャットの対応をするなども、マルチタスクの日常例です。
マルチタスクが苦手な人の特徴
仕事のさまざまな場面でマルチタスクが求められているものの、複数のことを同時に進めるのが苦手な人も一定数います。マルチタスクが苦手な人の特徴を4つあげて解説するので、自社の社員に当てはまるかどうか確認しながら読み進めてみてください。
完璧主義者
完璧主義者は仕事の細部にこだわり、脳に負荷をかけるため、マルチタスクが苦手です。完璧主義な人は目標や理想が非常に高く、完璧を求めすぎて自分を追い詰める場合もあります。
完璧主義なタイプの人が、「失敗しないように」「ミスを絶対にしないように」と考えながら細かな作業をすると、脳の領域の大部分を使い、負荷をかけてしまいます。脳は過剰な負荷がかかると、かえってミスをしてしまう場合もあるそうです。
また、一つの作業に集中しているときに、別の仕事が割り込むと、集中力が途切れてしまうでしょう。集中力が途切れるとミスをしてしまうかもしれないと、より一層、不安やプレッシャーを感じてしまいます。その結果、完璧主義者はマルチタスクが苦手になってしまうのです。
こだわりが強い
特定の作業や自分の考えに執着するなど「こだわり」が強いタイプは、マルチタスクが苦手なケースも多いです。こだわりが強い人は、特定のことに強い関心や執着を示します。完璧主義というより、「凝り性」「熱中しやすい」などの特性や、几帳面で真面目な性格を持つ人が多いといえます。
凝り性の人は、一つのことに熱中して自分のやり方で満足できるまで、とことん追求する性格の持ち主です。凝り性の人は好き嫌いがはっきりしていて、好きなことに対しては集中力が強い傾向にあります。一方で、嫌いなことには興味を示さないため、マルチタスクが苦手な傾向にあると考えられるのです。
スケジュール管理が得意ではない
スケジュール管理が得意ではない人は、計画通りに仕事を行おうとするものの、うまくいかずストレスを抱える傾向にあるため、マルチタスクが苦手です。スケジュール管理が得意ではない人は、タスクが計画通りに進められず、仕事がたまる傾向にあります。仕事がたまるほど、どの作業に手をつけたらよいか迷ってしまい、ストレスを感じてしまうのです。
また、スケジュール管理が苦手な人がマルチタスクを行うと、ほかの業務が気になってしまい、今行っている作業に集中できないでしょう。タスクの調整がうまくできずストレスに感じやすいため、スケジュール管理が得意ではない人は、マルチタスクが苦手だといえます。
一つのことに集中する
一つの作業に集中してしまう人も、マルチタスクが苦手といえます。一つの作業に没頭できるスキルは、職種によっては必要とされる貴重な能力です。たとえば特定の対象物を数年にわたり調査する仕事や、試験研究を繰り返して商品開発を行う仕事、製造業のライン作業を担う仕事などがあげられます。
複数の作業をバランスよく並行して進める能力がマルチタスクには求められるため、集中力を分散できない人には難しいでしょう。また、マルチタスクは作業の切り替えが発生する際、脳に負荷をかけて作業効率が落ちる場合もあります。作業の集中に対して脳内の切り替えが悪影響をもたらすため、一つのことに集中するタイプの人とマルチタスクは相性が悪いと考えられるでしょう。
マルチタスクのメリット
同じタイミングで複数のプロジェクトに参加したり、複数の顧客を管理したりするなど、幅広い仕事を効率的に進められる点がマルチタスクのメリット。マルチタスク人材ならではのメリットを4つ取り上げてご紹介します。
複数の仕事を同時進行できる
複数の仕事を止めずに同時進行できる点がマルチタスクのメリット。たとえば、自分の仕事に集中するあまり部下からの稟議申請を後回しにすれば、部下の仕事が止まってしまうでしょう。適切なタイミングで自分の仕事からほかの仕事に頭を切り替え、対応をして即座に自分の持ち場に戻るので、周囲からは「同時に複数のタスクをこなしている」と見えます。
もちろん、過度に複数のタスクを抱えすぎると、脳の切り替えがオーバーヒートしてしまい、非効率的になるリスクもあるでしょう。適切な業務量をかかえ、マルチタスク力を生かして複数作業を切り替えながら進めれば、仕事全体を推し進められます。
さまざまなステークホルダーとコミュニケーションがとれる
マルチタスクな人材は、脳をうまく切り替えて複数の人と同時にコミュニケーションがとれます。よって、仕事でかかわるさまざまなステークホルダーとバランスよく関係を構築できる可能性が高まるのです。
株主や取引先など社外の人や、上司・部下、他部門の社員などを含めて、仕事を進めるのに必要な人材と適切に関係構築ができるのは、マルチタスクのメリットといえます。
情報収集しやすい
マルチタスクの特性を生かせば、同タイミングに複数の人と接点をもてるでしょう。ビジネスシーンでは、他部署との連携や新しい取引先とのやり取り、社内メンバーとのミーティングなど複数の人と同時に接点をもち、情報を集められます。
幅広く情報収集できれば、プロジェクトを進めるヒントになり得ます。一見、自身が取り組んでいる業務に関係ないような情報でも、気づきを得られる場面は少なくありません。一つの作業に集中するシングルタスクよりも、視野を広げて情報収集できる点は魅力といえます。
仕事全体をバランスよく進められる
仕事の全体像をつかんでバランスよく業務を進められることはマルチタスク能力を伸ばすメリット。全体を俯瞰して問題が発生しそうな作業を早期に特定し、優先的に対処できます。また、全体を見渡しながら仕事をするため、急なタスクを依頼されても動じず、ほかの業務を調整できるでしょう。
マルチタスクのデメリット
マルチタスクならではのデメリットや、マルチタスク能力の注意すべきポイントについてまとめます。マルチタスク能力があれば、何でもうまくいくとは限らないため、デメリットを確認しながら自社に必要な人材要件を考えてみましょう。
業務効率が悪化して生産性が下がる
マルチタスクを行うと脳に負荷がかかり、生産性が下がるというデータがあります。さまざまな研究によって、人間の脳は一度に複数のことを処理できないと証明されています。よって複数のことを同時に行っているように見える人は、脳内で素早くタスクを切り替えることでマルチタスクになっているのです。
ただ、タスクを切り替える度に脳に負荷がかかり、脳に負荷がかかるとミスが増えて作業に時間がかかるという調査もあります。くわえてタスクの切り替えが得意な人は数%程度しか存在しないという研究結果もあり、根本的にマルチタスクな人材育成は難しいという見方もできるのです。
業務が中途半端になりがち
マルチタスクのデメリットは、仕事が完結せず中途半端になること。同時に行うため一つの作業に集中できず、すべての作業が中途半端で生産性や品質低下になってしまいます。
マルチタスクの人材がかかわる仕事がうまく回らなければ、周囲の人にも悪影響をおよぼすでしょう。たとえば自分が担当する作業が遅れれば、次に作業する人は予定よりも仕事を始めるタイミングが遅れます。
また、複数の作業を同時に行うことで、集中力が散漫になりミスが増える可能性もあるのです。必ずしもマルチタスクは、生産性を高めて仕事の質を向上させるとは言い切れません。
脳への悪影響やEQ低下の懸念
マルチタスクが習慣化すると、ストレスホルモンであるコルチゾールが増加します。コルチゾールは、脳の記憶を司る部分にダメージを与え、認知機能の低下や注意力の欠如などの原因になり得るのです。
またマルチタスクを続けると、EQが低下するという指摘もあります。EQとはEmotional Quotientの略で、感情知能を指す言葉です。EQが低下すると自身の考えや行動を理解する力、他人の思考や行動を把握する能力が弱くなる場合もあるそうです。
さらにマルチタスクは、EQだけではなくIQも低下させるという研究結果があります。IQとはIntelligence Quotientの略で、知能指数を示す言葉です。マルチタスクを継続すると、脳に悪影響が出ることがあり、知能も低下させる可能性があることを理解しておきましょう。
キャパオーバーでストレスを感じやすい
マルチタスクのデメリットは、キャパオーバーとなり、ストレスを感じやすくなること。想定外のことが起こったり時間管理がうまくできなかったりすると、マルチタスクな人材とはいえ限界を迎える場合もあるでしょう。
マルチタスクを継続して行うと、ストレスホルモンであるコルチゾールが増加します。ストレスがある状態でマルチタスクを続けると、さらに作業効率が落ちてしまうでしょう。
そもそも、人間の脳がは数個程度しか記憶できない構造となっているため、マルチタスクを試みるほど、脳の容量オーバーとなり混乱し、ストレスホルモンであるコルチゾールが増加します。キャパオーバーにならないために、タスク内容と期限を精査してから、作業を始めることが大切です。
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資料をダウンロードするマルチタスクで使えるテクニック
ここでは、マルチタスクを行う際に有効なテクニックについて解説します。どの方法も、作業効率や生産性を上げることが可能です。気になるものがあれば、ぜひ試してみてください。フレームワークを活用して生産性を向上させましょう。
タスクシフト手法
あらかじめ設定したタイミングで作業を切り替える方法のこと。コロンビア大学が考案したテクニックで、外的要因ではなく、自らのタイミングで作業を切り替えることが重要となります。人は「上司から期限を早めるように求められ、やむを得ずほかの作業を行う」といったように、外的要因で強制的にタスクの切り替えが発生するとストレスを感じるのです。
一方、「今の作業を30分行ったら次の作業へ移る」と、あらかじめ自身が設定したタイミングでタスクを切り替えると、作業効率が上がると研究により明らかになっています。タスクシフトを行う手順は、以下のとおりです。
- タスクをすべて紙に書き出す
- 1週間で行うタスクをピックアップする
- 優先順位をつけて実施する
タスクに優先順位をつける際は、優先度とタスクの実施に必要な時間を割り出しましょう。また「マルチタスクはシングルタスクの集合体」ととらえて、抱えているタスクをシングルタスクに分解してから優先順位をつけるとスムーズです。
パーキングロット思考
ほかの作業をするように求められても、まずは今自身が行っている作業を終えてから次の作業に取り掛かるという考え方のこと。パーキングロットは直訳すると駐車場という意味で、「目の前の問題を一時的に横に置いておく」ことを指します。新しく入ってきたタスクが急を要するものか確認する必要はあるものの、今目の前にあるタスクに集中して取り組むことで作業効率が上がるのです。
ただし、新しく入ってきた別のタスクの内容を忘れないよう、メモをとっておくとよいでしょう。メモを取る程度の短い時間であれば、作業の切り替えほど脳に負担を与える心配はありません。
ポモドーロテクニック
1980年代にイタリア人のフランチェスコ・シリロが考案した時間管理術です。ポモドーロテクニックでは、25分の作業と5分の休憩を1セットと考えて繰り返す方法で、この1セットをポモドーロと呼びます。ポモドーロはイタリア語でトマトを意味し、考案者のフランチェスコ・シリロがトマト型のキッチンタイマーを使用したため、ポモドーロテクニックと呼ばれるようになりました。
ポモドーロテクニックは、4セット繰り返したら15分から30分程度の少し長い休憩時間を設けます。休憩中はメールのチェックやSNSの閲覧、ネットサーフィンなどを避けて、遠くを見て目を休ませたり、散歩したりすることが推奨されているのです。
また、作業を始める前にやるべきタスクを書き出して、作業の完了に必要な時間を割り出して計画を立てます。作業計画どおりに進んだかどうか、1日または1週間のサイクルで振返りを行うとよいでしょう。定期的に休憩を挟んで脳の疲労が抑えられるため、精神的な疲労も最小限にできる点がポモドーロテクニックのメリット。余分な気がかりやストレスが減り、集中力と生産性が上がる効果が期待できます。
1×10×1システム
早めにできる仕事を先にこなすタスク管理術です。1×10×1の最初の1は1分、10は10分を表し、最後の1は1時間を意味します。つまり1分程度ですぐに完了するタスクから着手し、10分程度のタスク、1時間かかるタスクの順に進めていくテクニックです。
- 1分で終わるタスクの例:たとえばメール・チャットの返信や、「イエス・ノー」でかんたんに回答できる問いに対する返信、すぐに判断ができる承認行為など
- 10分でできるタスクの例:折り返しの電話連絡や議事録に目を通す作業、データ入力など
短時間で終わる作業から開始することで、タスクを貯め込まずスムーズに消化できるため、モチベーションや集中力の維持に役立ちます。
マルチタスクを高める教育・研修方法
マルチタスクで生産性を向上させるには、タイムマネジメントが重要です。マルチタスクには時間を有効に使えたり仕事全体をバランスよく進行できるメリットがある一方、脳に負荷がかかり生産性を下げる懸念点もあります。
マルチタスクはシングルタスクの集合体であるととらえて、シングルタスクのタイムマネジメントを行う意識をもつとよいでしょう。なお、タイムマネジメントとは、時間を効率よく使い、生産性を向上させる管理手法です。
具体的には、タスクの優先順位づけや期限・目標の設定、タスクの細分化といった手法があります。タイムマネジメントについては、関連記事の「タイムマネジメントスキルを高めるコツと8つの手法・研修を紹介」にて詳しく解説しています。タイムマネジメントスキルは研修で身につけられます。仕事の組み立て方や生産性を妨げる原因の取り除き方を理解するため、manebi eラーニングもぜひ活用してみてください。
manebi eラーニングはeラーニング形式で受講できるため、会場の確保や参加人数の調整は不要です。タイムマネジメント研修は新入社員から中堅、管理職まで幅広い社員を対象としています。
マルチタスクを正しく理解し生産性向上を図ろう
マルチタスクとは複数の作業を同時進行するスキルのこと。しかし実際のところ、人間の脳は一つの事柄しか対応できない構造となっているため、マルチタスクはシングルタスクの集合体ととらえるほうが正しいでしょう。複数のシングルタスクを頭のなかで素早く切り替えることで、外部からはマルチタスク能力があるように見えているのです。
マルチタスク能力を生かすためにも、本記事でご紹介したタスクシフト手法をはじめとするテクニックをうまく取り入れることをオススメします。また、生産性向上や作業効率をアップするタイムマネジメント法を体系的に学びたい人は、manebi eラーニングもオススメです。
manebi eラーニングは5,000種類以上のeラーニングを提供するサービスで、約2,500社が導入し、99%の高い継続利用率を誇っています。また、各社に適したカリキュラム作成もサポート。ご質問やご不明点があれば、メールや電話でお気軽にお問い合わせください。
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