近年のビジネス環境は、企業内外からのさまざまなリスクに脅かされています。企業活動を円滑に行い事業を存続させるには、リスクを想定して対応する「リスクマネジメント」が欠かせません。
この記事では、リスクマネジメントの意味や目的、4段階のプロセスなどについて詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。
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資料をダウンロードするリスクマネジメントとは?
リスクマネジメントとは、企業活動において起こりうるリスクを認識し、取るべき対策を講じる一連のプロセスのこと。企業経営を円滑に行うには、リスクマネジメントが不可欠です。ビジネスには、さまざまなリスクが存在します。リスクマネジメントができていれば、損失を食い止められ、チャンスをつかみやすくなるでしょう。
リスクマネジメントと混同されがちな用語
リスクマネジメントと、リスクヘッジや危機管理、リスクアセスメントとの違いについて解説します。
リスクヘッジ
リスクヘッジとは、リスク発生による影響を最小限に抑える対策・低減させる工夫のこと。リスクヘッジは、株式投資などの資産運用でよく使われるもの。たとえば、特定の株式の影響を抑えるための分散投資は、リスクヘッジといえます。
一方、リスクマネジメントでは、リスク回避策と、リスクが発生したときの対策の両方を検討します。リスクマネジメントの一部に、リスクヘッジが含まれるとイメージするとよいでしょう。
危機管理
クライシスマネジメントとも呼ばれる危機管理とは、危機(リスク)が発生したときに損害を最小限に収めるように行動すること。危機管理において、リスクは「いつか起こるもの」とみなされます。また、危機管理では、リスクマネジメントよりも大きな事態を想定して対策を考えるのです。「工場が火災を起こした」「大地震で事業所を失った」など、日常とはかけ離れた事態を想定して危機管理対策をしましょう。
リスクアセスメント
リスクアセスメントとは、リスクを特定して低減措置を図るための考え方。リスクマネジメントに取り組む事業者は、リスクアセスメントの結果を踏まえて、適切な対策を講じる必要があります。
リスクアセスメントでリスクの優先順位を決めると、リスクマネジメントの効果を早急に実感できるのです。すべてのリスクを防ぐのは現実的ではないため、危険性や有害性の高いものからリスクマネジメントしましょう。
リスクマネジメントが重要視されている背景
リスクマネジメントが重要視されている背景には、ビジネスを取りまく環境の複雑化があります。近年はVUCAの時代と呼ばれ、IT技術の発展やグローバル化により、社会やビジネスのあり方が急速に変化しています。くわえて、気候変動による大規模な自然災害、コロナウイルスのような大規模感染症の懸念もあるでしょう。
環境の複雑化に伴い、想定されるリスクも多様化。企業はリスクマネジメントを通じて、網羅的にリスクを把握して対策を考えなければいけません。リスクに負けない組織を作るために、早急にリスクマネジメントに取り組みましょう。
リスクマネジメントを行う目的
リスクマネジメントを行う目的は、想定されるリスクが発生したときに、事業を継続・存続するため。リスクマネジメントが適切に行えていれば、問題が発生した場合でも損失を最小限に抑えられます。一方、リスクが起きてから対処法を考えているようでは、事態が深刻化して、取り返しがつかなくなるかもしれません。
また、リスクマネジメントは投資家へのアピールにも有効です。投資家は財務状況や人的資本情報にくわえ、リスクマネジメントにも注目します。リスクが起きたときに経営が危ぶまれる企業は、投資家から敬遠されてしまうでしょう。
企業におけるリスクマネジメントへの取り組みの現状
日本企業のリスクマネジメントの実効性を観察するため、東京海上ディーアール株式会社は定期的にリスクマネジメント動向調査を実施しています。
「リスクマネジメント動向調査 2021(サマリー)」によると、調査企業の8割がリスクマネジメント委員会を設置していました。社員数が多い企業ほど、 リスクマネジメント体制が整っている傾向が見られます。
また、企業が今後重点的に推進したい取り組みには、コンプライアンス違反や情報リスク、労働問題などが挙げられていました。
※参考:リスクマネジメント動向調査 2021(サマリー)|東京海上ディーアール
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資料をダウンロードするリスクマネジメントにおける4段階のプロセス
リスクマネジメントを行う際は、以下4つのプロセスを辿ります。各プロセスを参考にリスクマネジメントを実行しましょう。
リスクの特定・把握
まずは自社でどのようなリスクがあるのかを特定し、把握することから始めます。リスクを正確に特定するためには、社内の人間への積極的なヒアリングが必要です。リスクマネジメントの専門チームのみで考えても、ピックアップできるリスクは絞られてしまいます。また働く部門や立場が変われば見ているものも、注意することも変わるでしょう。さまざまな人の意見を聞き、多くのリスクを特定・把握します。
特定・把握の段階では、考えられるだけリスクをピックアップしておいてください。分析なしでリスクの優先度を決めてはいけません。主観的な判断でリスクマネジメントを進めると、大きなリスクを見逃す可能性があります。
リスクの分析
リスクの分析では、特定・把握で挙がってきたリスクについて詳細を確認します。それぞれのリスクを「リスクが起きる根本要因」「発生確率」「影響の大きさ」などの観点から見てみてください。
「発生確率」といった、数値化できるものは極力数値化しましょう。定性的な情報のままでは、リスクを評価しにくいためです。数値化する際は、過去の似たようなケースを参考にしましょう。なお定量化が難しい部分は、リスク診断士(リスクを特定・把握して分析する専門家)のような専門家の意見を仰ぐ手もあります。
リスクの評価
リスクの分析が終われば、評価に移ります。分析で得られた「発生確率」や「影響度」などのデータを活用して、自社として対策すべきリスクに優先順位をつけましょう。
優先順位のつけ方として、リスクの「発生確率」と「影響度」をグラフの縦横にプロットする方法があります。「発生確率」と「影響度」の高いものほど、優先的に対策すべきリスクです。
かんたんに対策できるリスクであれば、優先順位にかかわらず対策しましょう。重大なリスクへの対策に時間がかかる場合、並行してかんたんに対策できるリスクを潰していくと、効率よくリスクマネジメントできます。
リスクへの対応
リスクマネジメントのうちリスクの評価までが、リスクアセスメントと呼ばれるプロセスです。リスクアセスメントが終わったら、実際にリスクに対応していくプロセスに移りましょう。リスクへの対応には「回避」「軽減」「移転」「容認」の4つがあります。4つの対応を組み合わせて、企業にとって最適なリスクマネジメントを行いましょう。
リスクマネジメントにおける4つのリスク対策
先ほど「リスクへの対応」で紹介した、4つのリスクマネジメント対策について解説します。
リスクの回避
リスクの回避とは、リスクを伴う事業活動や行動から手を引くこと。新規事業におけるリスクの回避を例に挙げて説明します。
事業が成功した場合に得られる可能性があるリターンと、失敗したときに起こりうる最大のリスクを比べてみましょう。リスクにリターンが見合わないときに、新規事業を諦める場合は、リスクの回避を選択したといえます。
リスクの根本を断ち切れば、損失は発生しません。必要性の低い取り組みについてリスクの回避を選択すると、リスクマネジメントの負担を減らせます。
リスクの低減
リスクの低減とは、リスクの影響を最小限に抑えること。たとえば、情報セキュリティでは、社員への教育を徹底する行為がリスクの低減にあたります。セキュリティソフトの導入や機密情報へのアクセス権の設定など、社員の意識改革と合わせて管理面の対策も取り入れると、効果的にリスクを減らせるでしょう。
機密情報の取り扱いは、事業を進めるうえでどうしても発生するもの。業務上避けられない内容については、リスクの低減で対策しましょう。
リスクの移転
リスクの共有とも呼ばれるリスクの移転とは、リスクの影響を第三者に移す対応方法です。たとえば、保険を契約しておいたり損害賠償を求めたりすると、リスクが発生しても損失を補填できます。
また、業務委託やクラウドサービスへのデータ保管など外部サービスの利用も、リスク移転の事例です。リソースやコストの問題などで自社で十分なリスク対策ができないときは、リスクの移転を検討しましょう。
リスクの容認
リスクの保有とも呼ばれるリスクの容認とは、リスクを受け入れる考え方のこと。ビジネスにはさまざまなリスクがあるものの、すべて対策できるわけではありません。
「リスクの発生確率が低い」「影響度が小さい」場合は、割り切ってリスクを容認しましょう。リスク対策にかかる負担が損失を上回るようでは、ビジネスとして取り組む意味を持たないためです。また、リスクへの対応に躍起になりすぎると、チャンスを逃す恐れもあるため気をつけてください。
リスクマネジメントとBCP対策(事業継続計画)との関係性
「事業の継続」や「復旧」に重きを置くBCP対策は、リスクマネジメントのひとつともいえます。
BCP対策とは、「事業継続計画」の意味で、不測の事態に陥ったときに、被害を最小限にとどめつつ迅速に事業を復旧・継続させるための計画のこと。不測の事態として挙げられるのは、自然災害やコロナウイルスのような大規模感染症の蔓延、基幹システムのようなビジネスに欠かせないシステムの障害などです。
不測の事態が起きたときの行動が決まっていなければ、損失が拡大します。早々に対応できれば復旧できたものでも、行動が遅れるほど廃業する確率は高まるでしょう。社員やその家族、事業を守るために、リスクマネジメントの際はBCP対策も強化しておきましょう。
企業がリスクマネジメントとして取り組むべき対象例
さまざまなリスクのうち、とくにリスクマネジメントとして取り組むべき対象を紹介します。対策も紹介するため、リスクマネジメントの参考にしてください。
情報セキュリティ
情報セキュリティは、リスクマネジメントが望まれる対象のひとつ。情報セキュリティ関連のトラブルが発生すると、企業のブランドイメージが低下します。また。情報漏洩により個人情報が流出すると、社員や顧客にも被害がおよぶでしょう。
企業のシステムに、サイバー攻撃や人的ミス、アクシデントなどさまざまなリスクがつきもの。しかしITツールやネットワークは、ビジネスを支える大切なシステムです。リスクマネジメントを行い適切にITツールやネットワークを使用しましょう。
情報セキュリティ対策には、セキュリティソフトの導入やアカウントの権限設定の見直し、不要なアカウントの削除、社員への教育などが挙げられます。
人材不足
業務を円滑に回すには、人材不足がもたらすリスクにも対策しなくてはいけません。人材不足の企業では、社員一人あたりの負担が増えがちです。社員に疲労が蓄積すれば、商品やサービスの質も低下するでしょう。過剰な労働で離職する社員が増えると、さらに人材不足が進行する場合もあります。
人材不足に対策する際は、離職率を低下させる取り組みと、採用活動の見直しを並行して進めましょう。フレックスタイム制度やリモートワークの導入、福利厚生の充実などを検討すると、働きやすい環境が整うため、離職率が低下するかもしれません。
同時に、SNSやイベントなどを通じて効果的に企業をアピールし、自社に合う人材の見極めに注力すると、採用活動を強化できます。
気候変動
気候変動リスクとは、気候変動により企業が受けるリスクのこと。近年は気候変動が深刻化しており、国内でも大規模災害の発生確率は高まる一方です。リスクマネジメントのなかでも、気候変動リスクの優先順位は高いといえます。上述したリスクマネジメント動向調査によると、気候変動対策・対応への取り組みにおいては、調査対象となった企業の49.1%が未実施と回答しました。
ただし、今後重点的に推進したいリスクマネジメントの取り組みとして、全体の23.3%が気候変動リスクを挙げています。気候変動リスクを抑えるには、自社が保有する設備強化や防災訓練などが有効です。
※参考:リスクマネジメント動向調査 2021(サマリー)|東京海上ディーアール
コンプライアンス違反
上述したように、多くの企業がコンプライアンス違反を重視しています。コンプライアンスを和訳すると「法令遵守」です。コンプライアンス違反が発生すると、企業イメージの低下を始めとして、芋づる式に多くの損失につながるでしょう。コンプライアンスを守るためにも、法律や社会的規範・ルールを守りながら企業活動を行わなくてはいけません。
コンプライアンス違反への対策としては、社内研修による認識のすり合わせ、内部監査のような不正をなくす仕組み作り、コンプライアンス関連を相談できる社内窓口の設置などが挙げられます。
メンタルヘルス
社員のメンタルヘルス(心の健康状態)は、個人の健康問題にとどまりません。社員のメンタルヘルスに問題が発生すると、生産性が落ち業績が悪化します。メンタルヘルスを悪化させる社員が多いと世間に広まれば、企業のイメージも低下するでしょう。
また、建築業界や医療業界などでは、社員のメンタルヘルスが原因で、一般の人を巻きこむ事故に発展するかもしれません。メンタルヘルス対策としては、適切な労働環境の構築や、健康推進につながる研修の開催、定期的なストレスチェックなどが挙げられます。
リスクマネジメントの取り組みを成功させるためのポイント
リスクマネジメントの取り組みをしても、付け焼き刃のようなものではトラブルが起きるかもしれません。リスクマネジメントの取り組みを成功させるためのポイントを解説します。
経営層から社員までがリスクマネジメントに関する正しい知識を身につける
リスクマネジメントは全社的な取り組みとなるため、経営層から社員までが正しい知識を身につける必要があります。研修やeラーニング、外部セミナーや資格取得などさまざまな方法で、関係者にリスクマネジメントを理解してもらいましょう。とくに、経営層がリスクマネジメントを理解していない場合、取り組みが形骸化する恐れもあります。
リスクマネジメントには多くのリソースが必要になるため、経営層がリスクマネジメントを強化する意向を示さなくては、社員は通常の業務を優先させてしまうからです。全社でリスクマネジメントの重要性を理解し、実用性の高い取り組みを進めましょう。
定期的に見直す
リスクマネジメントには、定期的な見直しも必要になります。リスクに対して妥当な対応を考えても、状況が変わればリスクの発生確率や影響度などが変わるためです。定期的に対応を見直さなければ、いざというときに対応策が機能しない恐れもあります。
たとえば情報セキュリティの分野では日々新しい技術が生まれているので、サイバー攻撃への対策は、適時見直さなくてはいけません。風通しのよい職場環境を構築するのも、リスクの見直しに重要です。社員が問題点に気がついても「自分の発言は気にされないはず」と考えてしまうとリスクを見直す機会が失われてしまいます。
リスクマネジメント体制・リスクマネジメント委員会を構築する
リスクマネジメントを適切に行うには、社内でリスクマネジメント体制を構築しておく必要があります。上述したように、リスクマネジメントには時間も手間もかかるもの。リスクマネジメント体制を構築したほうが円滑にリスク対策を進められるでしょう。
上述したリスクマネジメント動向調査によると、調査対象となった企業では「リスクマネジメント統括・担当部署」や「主要なリスクのリスク主管部署」や「内部監査部門」などが整備されていました。
多くの企業は自社の取り組みを公式サイトで公表しているので、同じ業界の事例を参考にリスクマネジメント体制の構築を検討しましょう。
※参考:リスクマネジメント動向調査 2021(サマリー)|東京海上ディーアール
弁護士の協力を得る
リスクマネジメントには契約関連や労務管理関連、知的財産権関連のように法的な問題が絡む機会も多々あります。顧問弁護士の協力を仰げば、専門的な知識や経験をもとにアドバイスを受けられるでしょう。インターネットの情報を参考にしたり法律に詳しい人がいない職場内で話し合ったりしても、法的に正しい対応を考えられるとは限りません。
知らず知らずのうちに違法行為におよんでしまうと、コンプライアンス違反に発展します。わからない部分をうやむやにせず、顧問弁護士に相談して適切な対応を考えましょう。
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