多能工化とは?推進するメリット・デメリットや企業の事例など詳しく解説

  • 人材育成

2024年7月5日(金)

目次

少子高齢化による労働力人口の不足により、多能工化に注目する企業が増えています。多能工化とは、社員の能力を活用し、人材不足の解決や働き方改革につなげる考え方です。多能工化によって業務効率化や柔軟な組織作りなどが期待できるでしょう。

本記事では、最初に多能工化の概要を解説したのち、多能工化を推進する効果とメリット、多能工化を進める際の注意点とデメリット、失敗させないポイントについて説明します。最後に企業の事例も紹介するので参考にしてください。

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多能工化とは

まずは多能工化の概要として以下を紹介します。後述するメリットやポイントを正しく理解するためにも、最初に基本事項を押さえてください。

  • 多能工化の意味と言い換え
  • 多能工化が生まれた背景
  • 多能工化を必要とする業界
  • 多能工と単能工との違い

多能工化の意味と言い換え

多能工化とは、社員が複数の業務をこなせるように教育すること。企業は多能工化によって属人化(特定の社員に依存している状態)の解消が期待できます。とくに日本では、働き方改革の推進と労働力人口の減少によって多能工化に注目が集まっている状況です。働き方改革では、時間外労働の上限規制が行われたため、社員は短時間で高いパフォーマンスを上げる必要があります。

また、そもそも労働力人口が減っているため、社員は複数の役割を求められるでしょう。各社員が多能工を身につければ、職場の多能工化が実現します。多能工は「マルチスキル」や「マルチタスク」とも言い換え可能な言葉で、複数の業務に対応できる社員自体を指す言葉です。このように多能工化は、組織の属人化を解消し、生産性向上を図る効果的な戦略と考えられています。

多能工化が生まれた背景

多能工化はトヨタ自動車の副社長であった大野耐一氏によって考案されました。元々トヨタ紡織に勤務していた大野氏が、紡績工場と自動車工場の生産方式の違いに気づいたことがきっかけです。紡績工場では一人が複数の機械を操作するのに対し、自動車工場では一人につき一台の機械を操作していました。

大野氏は自動車工場の効率性に課題を感じ、紡績業の生産方式を自動車工場に導入したのです。それにより、一人の社員が複数のプロセスを担当する多能工化が生まれています。

また社員間の業務量に差があった結果、ジャストインタイム生産(「必要な時点で、必要な製造工程に、最適な人材を配置する」という生産方式)が考案され、さらに方式がスムーズに機能するには一人の社員が複数の作業を行う必要があり、多能工化が重要な役割を果たします。このように多能工化が誕生した背景には、自動車工場の効率性に対する課題があったのです。

多能工化を必要とする業界

多能工化が生まれたのは製造業(自動車業界)だったものの、現在は流通・サービス業、ホテル・旅館業のような業種でも導入されています。製造業は人材とコストが限られているなかで、機械稼働率を向上して利益を確保しなければなりません。多能工化に成功すれば、各社員はスムーズに機械を操作できます。機械トラブルへの素早い対応も可能なので機械稼働率は向上するでしょう。

流通・サービス業では、複数の業務をこなせる社員によって生産性が向上します。たとえばスーパーマーケットの品出しやレジ打ちは、時間帯によって忙しさが異なるもの。各社員が多能工を身につけていれば、慌ただしい時間帯に応援に行けます。結果的に業務全体の生産性もアップするでしょう。

旅館・ホテル業も同様に、一人の社員がフロント業務、客室清掃、調理補助など、複数業務の担当を求められます。多能工化に成功すれば業務量を平滑化できるため、各業務ごとに人を雇うよりも人件費を抑えられるでしょう。

なお、多能工化が必要な企業の特徴は「生産性の向上・コスト削減・人材配置に課題を抱えているかどうか」です。実際に多能工化を導入する際は、経営陣のリーダーシップや現場社員との意思疎通も重要になります。

多能工と単能工との違い

単能工化とは、一人の社員が「特定の業務」をこなせるように教育すること。一方の多能工化は「複数の業務」を担える社員の育成なので、単能工化とは大きな違いがあります。単一業務に特化した社員が単能工です。「シングルスキル」や「シングルタスク」とも言い換えられます。

単能工は業務のスペシャリストなので、イレギュラーな事態に対応しやすいという点がメリットです。たとえば、業務中に問題が発生した際に「○○さんに聞けば解決できる状態」と考えてください。一方のデメリットは属人化です。特定の社員への依存度が高いため、その社員が不在の場合、業務が滞る可能性もあります。単能工は柔軟性に欠けるため、変化への対応が難しいという点もデメリットです。

多能工化を推進する効果と4つのメリット

多能工化を推進し、多能工を育成すると以下の効果が期待できます。それぞれ解説するので参考にしてください。

  1. 業務の属人化や人手不足の解消を防げる
  2. 柔軟性が高い組織づくりにつながる
  3. チームワークの強化につながる
  4. 業務の可視化により生産性の向上につながる

業務の属人化や人手不足の解消を防げる

多能工化の推進によって業務を平準化できるため、属人化や人材不足を防げます。前述したように業務の属人化とは、特定の社員に業務が依存している状態のこと。特定の社員以外、業務に関連した情報がわからない状態ともいえます。多能工化によって社員一人ひとりのマルチタスクが可能です。特定の社員に業務が偏るのを防げるため、属人化の解消につながるでしょう。

また、多能工化は社員の欠勤や繁忙期の人員不足に対応しやすいというメリットがあります。社員が急に会社を休んだり、長期の育児休暇や介護休暇を取ったりした場合でも、ほかの社員によって補えるのです。働き方改革によって義務化された有給休暇取得によって人が不足したときも、多能工化によってカバーしやすくなります。

柔軟性が高い組織づくりにつながる

変化が激しい消費者ニーズに対応するには柔軟な組織づくりが不可欠です。単能工化の組織は社員が特定の業務に特化しているため、スムーズな対応は難しいでしょう。ニーズの変化に対応するには、新たな技能を身につけたり、異なる業務に従事したりなどの再教育が必要です。

一方多能工化の組織は社員が複数の業務に携わっているため、ニーズの変化に柔軟に対応できます。消費者ニーズの変化が激しい現代市場において、多能工は単能工よりも柔軟な対応が可能です。

チームワークの強化につながる

単能工化の組織では、各社員が自身の業務に集中するため、ほかの業務に無関心になる傾向にあります。周囲とフォローし合う機会も限定的なのでチームワークは脆弱です。このような環境では社員間の連携に支障が生じ、組織全体のパフォーマンスが低下するかもしれません。

一方多能工化では幅広い業務に対応可能な社員が増えるため、お互いをフォローし合う文化が育まれます。多能工が複数の業務をスムーズに進めるには、周囲への関心と協力が欠かせないからです。その結果、チームワークの強化につながります。社員同士の助け合い精神によって組織全体に一体感が生まれ、大きな成果が見込めるでしょう。

業務の可視化により生産性の向上につながる

多能工化の推進には業務の可視化が欠かせません。業務の手順や必要な技能の見える化により、社員は必要な知識やスキルを習得しやすくなります。可視化によって従来は見過ごされていた課題の特定や、改善策の発見が容易になるからです。具体的には、業務の可視化によって以下が明確になるでしょう。

  • 作業の停滞が発生しやすい箇所
  • 問題やトラブルが発生しやすい業務
  • 稼働率が低い業務

課題解決につながるスキルを社員が身につけると、組織全体の生産性向上が見込めます。

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多能工化を進める際の注意点と2つのデメリット

多能工化を進めるメリットは大きいものの、実際に進める際は以下に注意してください。それぞれ確認しましょう。

  1. 多能工の育成・教育に時間が必要
  2. 社員のモチベーションが低下することがある

多能工の育成・教育に時間が必要

多能工は専門知識や経験が必要なので育成に時間がかかります。さまざまなスキルが求められるため計画的なアプローチが必要です。企業が時間とコストを費やしても、すぐに効果が出づらいという点はデメリットといえます。実際に多能工を育成・教育する際は工夫してください。具体的な教育方法として研修やOJTなどを検討しましょう。

  • 研修:社内研修と社外研修があり、併用すると、自社ノウハウの共有(社内研修)と、外部専門家のノウハウ(社外研修)を学べるので高い効果を期待できる
  • OJT:上司や先輩が指導役になり、部下や後輩に実務のなかで知識・スキルを習得させる方法。とくに高度な知識やスキルが必要な業務の場合、研修だけでは不十分な可能性があるため、OJTによる育成が効果的

多能工の教育を効率化するには、社員一人ひとりの適性を把握したうえで、それぞれに合った教育方法を選択することもポイントです。

社員のモチベーションが低下することがある

多能工化を推進する際は、各社員への影響を十分に考慮する必要があります。とくに経営者の都合だけで多様な業務を任せた場合、社員は納得しないまま苦手な業務に携わることになりかねません。その結果、モチベーションが大きく低下する可能性もあります。

社員のモチベーションを維持するには、業務範囲の適切な見直し、キャリアプランに合った育成計画、人事評価制度の最適化などが重要です。とくに人事評価制度が適切に機能していない場合「これだけ頑張ったのに評価されていない」と社員は感じ、業務意欲が大きく低下するリスクがあります。最悪の場合、離職に至ってしまうかもしれません。

社員のパフォーマンスを適切に評価し、報酬や昇進に反映する人事評価システムの構築が不可欠です。社員は適正な評価を受けることで自己の成長を実感し、組織への貢献度も高くなります。

多能工化を失敗させない3つのポイント

多能工化の推進はメリットが大きいものの、デメリットもあるので失敗しないポイントの把握が大切です。ここでは以下のポイントを解説するので参考にしてください。

  1. スキルマップの可視化・業務の洗い出しを行う
  2. 育成計画とマニュアルの作成を行う
  3. 定期的に効果を検証する

スキルマップの可視化・業務の洗い出しを行う

多能工化の失敗を防ぐには、最初に各社員の業務量や保有スキルの洗い出しが大切です。社員が担当している業務の棚卸しを行ったうえで、各業務に関連するスキルを明確にしましょう。

次に要な業務と優先度が高い業務を特定し「誰にどの業務を担当させるか」を決めます。とくに「属人化している業務」「コストが高い業務」「人手不足の業務」3つに注目し、多能工化を適用すると効率的です。

スキルマップ(社員のスキルを数値化し、偏りや不足を明らかにするツール)の作成と活用も多能工化の推進には重要になります。スキルマップによって社員の現在のスキルを理解できるため、今後必要なスキルが明確になるでしょう。このように多能工化を進める際は、各社員が持っているスキルや適性の把握が大切です。

育成計画とマニュアルの作成を行う

社員それぞれのスキルや適性をもとに育成計画を立案します。目標と現状を考慮したうえで「いつ」「誰が」「誰に対して」「何を」「どのように」育成するのかを定めましょう。

同時に多能工化を支えるマニュアルの作成も欠かせません。マニュアルによって社員は迅速に多能工化に取り組めるからです。マニュアルを作成する際は、図や表を活用すると、テキストだけのマニュアルよりも社員が理解しやすいでしょう。

また、育成計画は社員の同意を得たうえで進める必要があります。同意を得ないまま強引に進めても効果は限定的です。あわせて多能工化の目的を社員と共有することにより、組織全体の意識を統一する効果が期待できます。

定期的に効果を検証する

多能工化は定期的に進捗状況を確認することが大切です。その際は多能工化の効果を測定したうえで、必要に応じて調整します。具体的には上司が社員との1対1の面談やミーティングを実施し、「どのくらい多能工化が定着しているのか」を測定します。スキルマップを確認しながら振り返り、多能工化の進捗度合いを図ることも効果的です。

また社員の負担や体調管理、モチベーションへの配慮も重要になります。仮に社員が大きな負担を感じていたり、心身に不調が生じていたりという場合は、業務の再配分が必要になるでしょう。多能工化に投じた時間やコストを最大限に活用するには、社員の視点に立ったコミュニケーションと適切な業務の割り当てが欠かせません。

多能工化を推進している企業4つの事例

多能工化を推進している企業の事例を紹介するので参考にしてください。

株式会社星野リゾート・ホールディングス

星野リゾートは日本を代表する温泉旅館であり、創業から109年を迎える歴史ある宿泊施設です。同リゾートは社員一人ひとりがフロント、客室、調理補助、レストラン業務をこなす多能工化に取り組みました。

星野リゾートが多能工化を推進した理由は「人件費の有効活用」と「顧客の情報収集」です。前述した4つの業務は、忙しさのピーク時間が異なっています。一人が複数の業務をこなすことで無駄な時間を削減でき、効率的な人材活用が可能になりました。

また社員のマルチタスクによって顧客との接点が増えたため、満足度向上につながる情報も得やすくなっています。星野リゾートは多能工化の推進により、中抜けシフトの解消、生産性・収益性・顧客満足度の向上を実現した企業です。

株式会社ヤオコー

株式会社ヤオコーは食料品を主体に扱うスーパーマーケットチェーン。埼玉県を中心に1都6県で店舗展開しています。ヤオコーでは「業務の効率化」と「生産性の向上」を目的に多能工化を導入しました。元々は、レジ担当、惣菜担当、品出し担当と業務が細分化されており、慌ただしい時間帯の柔軟な対応が難しく、効率的な運営に課題がありました。

その対策として、手が空いているレジ担当者が品出しや惣菜の補助に回ったり、惣菜担当者がレジを担当したりと、複数の業務をこなす多能工化を開始したのです。ヤオコーは多能工化を推進した結果業務の平準化が進み、全体の生産性が向上。効率的な人員配置により、顧客満足度の向上にもつながった事例です。

トヨタホーム株式会社

大手ハウスメーカーのトヨタホーム株式会社は、住宅部材の製造で多能工化を推進しています。一般的に工場勤務の社員は単能工が多いものの、トヨタホームは繁忙期や閑散期に応じて柔軟に人員配置を行いました。それにより人件費の削減だけでなく、完全受注生産の効率化に成功した事例です。

実際、トヨタホームが公開している「役員・常務理事人事及び組織改正に関するお知らせ」というレポート内でも、以下の記載があります。

“当社は経営体制を効率化することで、意思決定の迅速化を図り、競争力の強化につなげます” (※)(引用)

このようにトヨタホームは、多能工化による人材育成に力を入れている企業です。

※引用:役員・常務理事人事及び組織改正に関するお知らせPDF|トヨタホーム株式会社

リコーインダストリー株式会社

事務・印刷機器の消耗品やリコー製品を販売しているリコーインダストリー株式会社は、多能工化の促進が長年の課題でした。具体的には部門別に管理していたスキル情報の共有や、定年退職者が発生した場合のスキル喪失対策などです。このような課題に対応するためエクセルフォーマットにもとづく管理画面を開発し、社員のスキル情報を可視化。

その結果、管理者は社員全体のスキルを把握し、部門間の情報共有がスムーズになっています。さらに、スキル分布や経年変化のグラフ化により、スキル喪失にも迅速に対応できるようになりました。また、製造コストの削減として、ロボットの多能工化(組み立て・梱包作業)も行っています。

多能工の育成にも研修・eラーニングの活用がおすすめ

多能工化とは、社員が複数の業務を担うための教育を指します。企業は多能工化を推進することにより、業務の属人化や人手不足の解消、柔軟性が高い組織づくり、チームワークの強化、生産性の向上というメリットを期待できます。ただし、多能工の育成・教育には時間が必要です。社員のモチベーション低下には注意してください。

多能工化を失敗させないポイントとして、スキルマップの可視化・業務の洗い出し、育成計画とマニュアルの作成、定期的な効果検証があります。実際に多能工化を進めるには、eラーニングや研修を活用した社員の育成が効果的でしょう。

manebi eラーニング」が提供するeラーニングコンテンツ数は5,000件と多く、かつカスタマーサポートが充実しており、アップロードを活用した自社教材の配信やスピーディーなノウハウの共有も可能です。たとえば「OJTの計画立案」や「人材育成の手法」など多能工化を進めるのに役立つさまざまなコンテンツが利用できます。

オンライン研修とeラーニングをブレンドしたブレンディッドラーニングを活用すれば、さらに高い研修効果を実感できるでしょう。詳しい内容は以下でご確認ください。

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