会社が主導して研修を行う場合、基本的には労働時間に含まれます。しかし、社員が自発的に、会社の設備を使って研修を行った場合、基本的には労働時間には含まれません。では、会社が主導して開催した研修が、終業時間外におよんでしまった場合、残業代を支払う義務は生じるのでしょうか。
本記事では、労働時間の定義や残業時間に関する規定について解説したうえで、研修中の賃金や残業代の支払い義務の有無を解説していきます。社員の労働時間を管理する人事労務担当者様、社員の労働時間に関与する研修の実施者様はぜひ参考にしてください。
\社員教育はeラーニングと集合研修で/
資料をダウンロードする労働時間の定義
厚生労働省では、労働時間を次のように定義しています。
・労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。
・使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は、労働時間に該当します。
厚生労働省「労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い」
ただし、次のような時間は労働時間には含まれません。
- 夜間勤務のある会社で仮眠室を使い仮眠している時間(電話対応や業務を行わない場合)
- 制服や作業着の着用が任意、もしくは自宅から着用が認められている場合の着替え時間
- 人的な理由で始業前に会社に到着し、始業時間まで業務をしない(業務の指示も受けていない)時間
- 自宅からの直行直帰の移動で業務の指示がなく、業務を行っていない時間(ただし、移動手段の指示が出ている場合は業務に従事していなくても労働時間になる)
- 遠方への出張で仕事の前日に自宅から出張先に移動して前泊する際の移動時間
2つの労働時間の概念
正しい労働時間の把握は、社員の勤怠管理を行ううえで欠かせない重要な事柄のひとつです。一般的に労働時間には「所定労働時間」と「法定労働時間」の2種類があり、どちらも超過して労働をさせた場合、残業代を支払わなければなりません。ここでは、それぞれの労働時間について解説します。
所定労働時間:就業規則で定められた時間
所定労働時間とは、会社の就業規則で定められた労働時間です。始業から終業までの時間から食事や仮眠などの休憩時間を差し引いた時間が所定労働時間とされています。一般的な企業で、始業が9時で終業が18時、休憩時間1時間の場合、所定労働時間は8時間です。業務の指示を受けない休憩時間は労働時間には含まれません。
所定労働時間は会社が独自に設定できます。ただし、次に説明する法定労働時間の上限を超えない範囲で設定しなければなりません。
法定労働時間:原則1日8時間、週40時間
法定労働時間とは、労働基準法で定められた労働時間で、原則として1日8時間、週40時間を上限としています。前述した所定労働時間は、法定労働時間以内であれば会社が自由に設定可能です。1日6時間勤務でも4時間勤務でも問題ありません。
しかし会社が労働者に対し法定労働時間の上限を超えて労働をさせる場合、労使間により書面で36協定を締結し、所轄の労働基準監督署への届出が必要です。
時間外労働とは
労働基準法において時間外労働とは、法定労働時間を超えた労働を指します。たとえば法定労働時間で1日の労働時間は8時間とされているため、9時間働けば1時間の(法定)時間外労働です。また、労働基準法で休日は1週間に1回もしくは4週間を通じて4日以上付与しなければなりません。これを法定休日と呼び会社が労働者に対して法定休日に労働をさせた場合、労働基準法の(法定)休日労働になります。
残業時間に関する規定
会社が労働者に対し(法定)時間外労働もしくは(法定)休日労働をさせた場合、残業代を支払わなくてはなりません。ここでは、残業時間の定義と残業を命じる場合に必要な36協定について解説します。
残業時間の定義
一般に「残業時間」が指すのは、「所定労働時間」を超過して働いた時間です。ただし、残業代の計算方法は、法定労働時間の「1日8時間」を超えない「法定時間内残業」と「1日8時間」を超える「法定時間外残業」によって異なります。ここでは、所定労働時間が7時間、時間給2,000円の会社で2時間残業した場合に発生する残業時間賃金の計算方法を見てみましょう。
法定労働時間は1日8時間のため、2時間の残業のうち、1時間は「法定時間内残業」、1時間は「法定外時間残業」になります。法定時間内残業の賃金は時間給のままです。しかし法定時間外残業は残業代のほか、割増賃金も支払わなくてはなりません。割増率は22時までであれば、1.25倍、22時から翌5時までは1.5倍です。今回の例では22時前のため1.25倍で計算します。
(1時間×2,000円)+(1時間×2,000円×1.25)で、割増賃金を含む残業時間賃金は4,500円です。
残業を命じるには36協定の締結が必要
会社は労働者に対し、法定時間内であれば労使間の合意にかかわらず残業をさせられます。しかし、法定時間を超過して労働をさせるには、労使間の合意のもとに書面で36協定の締結を行い、所轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません。
36協定とは労働基準法第36条の略称で、労働者に法定時間外労働をさせるための法律です。ただし、36協定を締結したとしても、無制限に法定時間外労働をさせることはできません。具体的には原則として、月45時間、年間で360時間を限度としています。
この上限規制は法制化されており、導入の開始は、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から、そして建設業や医業などでは2024年4月からです。36協定の届出をせずに労働者に法定時間外労働をさせた場合、労働基準法32条違反として同法第119条第1項の定めるところにより、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科せられます。
\社員教育はeラーニングと集合研修で/
資料をダウンロードする研修中の賃金は出ないのか
社員研修で講師をする、受講者として参加するとき、賃金が出る場合と出ない場合があります。基本的に賃金は労働時間の対価です。よって、研修が労働時間に含まれると判断されれば賃金は出ます。労働時間の考え方における研修や教育訓練の扱いを判断する主な基準は、業務上義務づけられているか、自由参加なのかどうか。業務上の義務ではなく自由参加の研修や教育訓練は労働時間には含まれません。
ただし、「自由参加としていながら参加しないと就業規則で減給処分の対象とされている」「参加しないと業務に必要な知識や技術を習得できない」場合などは労働時間に該当します。研修が労働時間に該当するかどうかについて、具体的な例を挙げて見ていきましょう。
研修が労働時間に該当する事例
研修が労働時間に該当し、賃金支払いの必要があると判断するためのおもなポイントには、次のようなものが挙げられます。
- 受講内容が業務を遂行していくために必要不可欠であるか
- 会社として参加義務があるとしているか
- 研修に参加しないことで業務もしくは待遇面に不利益が生じるか
- 研修内容に関して会社からレポートの提出を義務づけているか
- 研修に参加することが昇給や人事査定に影響をおよぼすか
次から研修が労働時間に該当すると判断される事例を3つ紹介します。
会社指定の社外研修に休日参加し、課題もあった場合
会社が指定している社外研修のひとつに休日参加を命じられたうえ、後日レポート提出の課題を求められた場合、実質的な業務指示であると判断され、労働時間に該当します。ポイントは会社からの指示があるかどうかです。
就労のために必要な業務見学を社内で行った場合
自分が担当している業務もしくはこれから担当することになる業務について、上司がその業務を行っているところを見学しないと業務に就けない場合、この業務見学は労働時間に該当します。ポイントは自身がかかわる業務に不利益が生じるかどうかです。
新卒入社の新人社員研修期間、就業時間外の研修もある場合
新卒入社で研修期間中であっても、会社からの指示によって行われる研修であれば、労働時間に該当します。仮に試用期間中であっても同様です。また、会社からの指示で行う研修であるため、所定労働時間を超過して研修が行われた場合は、通常の賃金以外に残業代の支払も必要になります。
研修が労働時間に該当しない事例
研修が労働時間に該当しないと判断するためのおもなポイントには、次のようなものが挙げられます。
- 会社指示ではなく任意で参加した研修や講習会
- 研修に参加しなかったとしても業務を行ううえで不利益が生じない場合
- 自身がかかわる業務内容に直接関係のない研修や講習会
ただし、業務を行ううえで不利益がなくとも、人事評価でマイナスになるような場合は、労働時間に該当するとみなされます。次から研修が労働時間に該当しないと判断される事例を3つ紹介します。
就業時間外に、参加自由の勉強会に参加した場合
会社からの参加指示がなく、レポート提出を課されていない参加自由の勉強会は、法定労働時間外や休日であっても労働時間には該当しません。また、不参加によって不利益な取り扱いがないケースでもあり、労働時間には該当しないと判断されます。会社から弁当や食事代が提供された場合であっても、参加を強制するものでなければ、労働時間には該当しません。
就業時間外に、自ら申し出て先輩社員に教育訓練を依頼した場合
会社からの指示や強制、自身の業務にかかわる見学は該当します。しかし、自ら申し出て教育訓練を依頼した場合は就業時間外であっても労働時間には該当しないと判断されます。また自身の業務にはかかわらないものの、興味があるため見学をする、将来的にその業務を行うことを希望しているために見学をする、といったケースも労働時間に該当しません。
会社主催の任意参加の英会話講習に参加した場合
労働時間に該当するかどうかは、会社主催かどうかで判断するのではなく、強制か任意かがポイントになります。会社主催であっても、任意参加の英会話講習であるため、その講習に参加した時間は労働時間に該当しません。
また、この場合のもうひとつのポイントは参加した講習が自身の業務と関連性があるかどうか。英会話ができないと業務に支障が生じる場合、労働時間に該当する可能性があります。しかし、英会話が自身の業務と関連性がなければ、労働時間には該当しません。
eラーニング×オンライン研修を組み合わせた学習支援サービス「manebi eラーニング」がおすすめ!
研修は、業務で成果を上げる、新卒社員に業務知識や技術、会社のルールを教えるなど、会社にとって重要な役割を果たします。ただし、研修や教育訓練であっても、業務上義務づけている場合は労働時間に該当する点は理解しておかなければなりません。
さらに所定労働時間を超えて研修を行った場合は、残業代の支払いが必要になります。そこで効率的かつ適切な研修を実現する手段としておすすめなのが、オンライン研修やeラーニングです。「manebi eラーニング」は、eラーニングとオンライン研修を組み合わせた学習支援サービス。5,000以上の豊富なeラーニング教材に、自社教材やオンライン集合研修などを自由に組み合わせて、目的に応じたさまざまな研修の実施が可能です。
初めての研修設計であっても、カスタマーサポートがしっかりと対応しますので、安心してご利用頂けます。効率的な研修の実現を検討されている際は、まず資料のダウンロードをご検討ください。
詳しくは、「サービス資料・教材一覧ダウンロード」から。
\社員教育はeラーニングと集合研修で/
資料をダウンロードする