めまぐるしく変わるビジネス環境のなかで企業を存続させるには、「自走型人材」の育成が必要不可欠です。自走型人材の多い企業は、限られた人的リソースを有効活用できるため、市場競争力が増すと考えられます。しかし、自走型人材とはどのようなものか、具体的にイメージできる人は少ないのではないでしょうか。
本記事では企業の人事担当者や育成担当者に向け、ビジネスシーンにおける「自走」の意味を解説します。自社の社員や組織の自走力を高める方法も紹介するので、ぜひお役立てください。
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資料をダウンロードする自走の意味
「自走」とは、外部の助けを借りず自力で走行すること。たとえば、人が押さなければ動かない手押し車に対して、搭載したエンジンで走る自動車は自走できると表現できます。ビジネスシーンでの自走とは、最終的な目的を理解したうえで、指示された以上の内容をくみ取り目的達成に向け取り組むこと。
いわゆる「指示待ち人材」と異なり、自走できる社員は論理的に考えて自分が取るべき行動を見つけます。わからない部分は質問し、新しいアイデアを思いついたら積極的に提案するので、自走できる社員は周囲との関係性も築けるでしょう。
また、自走型組織とは、自走できる人材で構成された組織を意味します。社員それぞれの力や持ち味を最大限に発揮できる自走型組織には、課題を速やかに解決でき、新たなビジネスが生まれる環境が整っています。
ビジネスシーンでの自走の使い方
ビジネスシーンでは、以下のように「自走」が使われます。
- 自走力
- 自走型人材
- 自走型組織
「自走力」とは、仕事を自分事として捉え、責任を持って仕事を進めるスキルのこと。「企業は自走力のある人材を必要としている」などと使われます。また、「自走型人材」は自走力のある人材を指し、「自走型組織」は自走型人材で構成された組織を意味する言葉です。
自走型人材は、自分に足りていないスキルを見極め、目標に向けてキャリア形成に励みます。自走型人材を上手くサポートできる企業は、個々の人材のパフォーマンスを大きく向上させられるでしょう。なお、自走型人材が積極的にキャリア形成に励む様子を「キャリア自律」と呼びます。
自走が必要とされる理由
自走できる社員の獲得・育成は、企業にとって必要不可欠です。自走できる人材の必要性を、近年の変化が著しいビジネス環境や、働き方ニーズの多様化、即戦力人材の需要性などに触れつつ解説します。
経済・社会構造の変化
経済・社会構造の変化に対応するためには、自走型の人材や組織が必要です。2023年現在、近年のビジネス環境は「VUCA時代」といわれる状況にあります。VUCAは、以下4つの単語の頭文字をつなぎ合わせた言葉です。
- V=不安定(Volatility)
- U=不確実(Uncertainly)
- C=複雑(Complexity)
- A=不明確(Ambiguity)
VUCA時代はさまざまな要素がめまぐるしく変わり、リスクの予測が困難です。資金が潤沢で歴史とノウハウがある大企業でも、判断を誤れば企業活動を存続できない可能性があります。
予測不能な事態が起きたときに、臨機応変に対応するには、現場の社員の自走力が必要不可欠。第一線で働く社員は、ビジネス環境の変化にいち早く気がつけるため、現場社員にこそ自走力が必要といわれています。
働き方ニーズの多様化
働き方が多様化したことで、上司にとっては細かなマネジメントが難しいシーンも増えています。そのような環境に対応して成果を得る際、社員の自走力が問われるのです。
たとえば、オフィスに社員が集っていた頃は、上司が部下の状況を見て適時フォローできました。一方、リモートワークが浸透した近年、上司は部下が困っていることに気がつけなかったり、リスクを見逃したりする恐れもあります。
また、リモートワークの環境では、部下は上司の指示を待たずに自分で考えて仕事を進める場面が多くなるでしょう。さらにフリーランスや副業・兼業などの働き方が増えたことも、自走型人材の需要を高めています。
新しい働き方では、これまでのやり方が通用しないケースも十分予想されるでしょう。各企業は自走力のある人材を確保して、個人単位・チームや部門単位が意思をもって自走できる体制を整えなくてはいけません。
即戦力人材の需要性
即戦力人材に対する需要の高まりも、社員の自走力が重視される理由です。人手不足が続くなか、中小企業では人材育成をする余裕はありません。そのため、中途採用を募集するときは、自走力のある即戦力人材が注目される傾向にあります。
中途採用で自走性のある人材を見極めるには、スキルや経歴にくわえ、今までと異なるやり方・価値観を受け入れ求められる役割を果たせるか、目的達成のために周囲と協力できるかなどを確認しましょう。
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資料をダウンロードする自走型人材を育てるメリット
自律型人材とも呼ばれる「自走型人材」を育てるメリットを解説します。自走型人材を育てると、業務効率向上や経費削減だけではなく、ビジネスチャンスの獲得やリスク回避にもつながります。
業務効率がアップする
自走型人材を育てると、指示を待ったり稟議をもらったりする過程で発生する「待機時間」を削減可能です。自分で考えて行動でき、業務のムリ・ムダ・ムラを見つけるスキルにも長けている自走型人材がいれば、大いに業務効率化が見込めるでしょう。
業務効率化に成功した企業は労働時間を短縮でき、人件費を削減可能です。効率よく働きワークライフバランスが改善した社員は、企業や組織への愛着が増します。したがって、自走型人材を育てると離職率の低下にもつながるでしょう。また、モチベーション高く働く社員が増えれば、仕事の質も高まります。
育成コストが削減する
優れた人材を育成するには、時間と労力、そして費用もかかります。一方、自走型人材で構成された企業は、上司がいちいち口出しして教える手間を減らせるため育成コストを削減可能です。
もちろん自走できる社員を育成するまでには、それなりの負担がかかるでしょう。しかし、長い目で見ると、あらかじめ社員の自走力を高めておいたほうが育成コストを大きく削減できると考えられます。
自走型人材は、自分に足りていないスキルを見極めて目標に向け自ら努力するうえ、研修で学んだ内容を理解し、自発的に業務で実践しようとするため、インプット・アウトプットを繰り返してぐんぐん成長していくでしょう。
新たなアイデアが生まれやすい
自走型人材の個々の持ち味を生かすと、新たなアイデアの創出が可能です。自走型人材は自分の軸を確立しているため、人の意見や職場の雰囲気に流されません。結果的に、既存の枠にとらわれない独創性の高いアイデアが生み出されます。
企業活動を続けるには、独創性の高いアイデアが必要でしょう。独創性の高いアイデアが重要な理由は、競合との差別化や新たなビジネスモデルの開拓につながるためです。上司の指示のもと行動する人、既存のやり方の模倣しかできない人ばかりでは、企業の取り組みは次第に無個性化するでしょう。
また、独創性の高いアイデアは、社内に新しい風を吹き込むきっかけを作ります。アイデアに刺激を受けると、周囲の社員のモチベーションが高まり、社内も活性化するでしょう。
変化に適応しやすい
社会や業界の変化に適応するためにも、自走型人材の育成が望まれます。自走型人材は仕事を自分事としてとらえ、責任を果たそうと振る舞うためです。「結果に責任を持たずに指示のとおりに行動する社員」よりも「企業の目的に合わせた結果を出すために仕事に取り組む自走型人材」のほうが、課題を見つけて対応する力に長けています。
トップダウン型の企業や、指示待ち人材ばかりの企業は、ビジネス環境の変化に対応できない恐れもあります。自走力のない社員では、状況を適切に伝えられず上司や上層部での気づきも遅れるでしょう。しかし、変化への対応が遅れるほど、挽回は難しくなります。
自走型組織をつくるメリット
組織そのものの自走力を高めるとどのような恩恵を得られるのでしょうか。少し視野を広げて、自走型人材で構成される自走型組織を作るメリットを確認しましょう。なお、ここでいう組織とは、企業そのものや、部門やチームなどを指します。
多様な課題に対応しやすい
自走型組織に権限委譲すると、上層部が意思決定を下す時間を削減できます。しかも、自走型組織は既存の枠にとらわれない考え方ができるのです。多様な市場ニーズに柔軟に対応できると、変化の激しいビジネス環境でも、企業を存続させられるでしょう。
自走型組織が多様な市場ニーズに対応できる理由は、自走型人材で構成されているため。前述のように、自走型人材は自分の価値観や経験に従い、柔軟に考える力があります。多くの自走型人材が課題解決にかかわるほど、さまざまな視点からアプローチ方法を検討できるのです。
マネジメントコストを削減できる
組織の上層部が管理して指示を出す頻度が減ると、マネジメントコストを削減できて、企業経営に大きなプラスとなります。自走型人材は自分で考えて行動できるため、自然に上層部が指示を出す機会は減ります。くわえて、自走型人材は要点を押さえた報告をするため、進捗状況の確認も容易でしょう。
組織の上層部は、部下のマネジメントはもちろん、予算管理、人材評価方法の策定、リスクマネジメント、地域や得意先との関係性構築、経営に関する判断などさまざまな業務を抱えています。慌ただしすぎて、重要な業務に集中できていないと考える人も少なくありません。
しかしながら、自走型組織でも企業の方向性を示したり、部下の進捗状況を確認したりする管理は必要です。必要最小限の管理にとどめつつ、大幅にマネジメントコストを削減できるでしょう。
自走できる人材育成の方法
自走できる人材育成方法を具体的に解説します。まずは自社が求める自走型人材を定義し、個々の自走力を高めるだけではなく職場環境の整備にも取り組みましょう。
自社が求める「自走型人材」を定義する
自走できる人材といっても、とらえ方は人それぞれです。「自走人材」のコンピテンシー(目標とする人材が兼ね備えている特性)を定め、自社が求める人材像を明確化しましょう。自走型人材が備えるべきコンピテンシーの一例は次のとおりです。
- 課題発見力がある
- 自分で役割を見つけ、目標を立てられる
- 言語化能力が備わっている
- 論理的思考ができる
- 報告、連絡、相談のタイミングが適切かつ簡潔である
- 周囲からの信頼が厚い
- プラス思考である
- 自責思考である
コンピテンシーは、できる限り具体化しましょう。わかりやすいコンピテンシーがあれば行動に移しやすく、自発的な行動で成果に結びつけた社員はモチベーションが高まり、さらなる自走を期待できます。
自走型人材と関連する主体性については「主体性とは?必要な理由や主体性を身につける方法をわかりやすく解説」を参照ください。
仕事を任せて経験を積ませる
自走力がある人は、幅広い経験を保有しています。自走力を高めるため、まずは社員が一人でできる仕事の量を増やして経験を積ませましょう。権限委譲して、自分の裁量で動く習慣を定着させてください。
一方で、いきなりすべてを任されても、どのように行動してよいかわからない人もいるでしょう。また、判断がもとでトラブルが起きるリスクもあります。最初は権限委譲する範囲を絞り、徐々に考えさせる範囲を広げるようにするとよいでしょう。
なお、せっかく仕事を任せても、周囲がフォローしすぎると社員の成長が妨げられます。上司はほかの社員に根回ししておき、組織ぐるみで自走できる人材を育成する姿勢が大切です。
自走できる環境を整える
自走できる環境を整備しましょう。具体的には以下の内容に取り組みます。
- 自走型人材について言及したMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の策定
- 人事制度における評価基準の明確化
- リーダーが指示をし過ぎない風土作り
- 心理的安全性のある職場作り
心理的安全性のある職場作り自走型人材について言及したMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の策定
MVVとは「企業の存在意義・理想像・社員がなすべきこと」を明文化したものです。企業の考え方を明確にして、社員が自走する方向を示しましょう。
人事制度における評価基準の明確化
自走できる人材が評価される仕組みがあれば、自走するモチベーションが上がります。評価基準を明確にして、社員の自走を促しましょう。
リーダーが指示をし過ぎない風土作り
トップダウン型が強い企業は、指示をしすぎないように見直すことをリーダーに伝えておきましょう。過剰なフォローは、社員の成長を妨げます。
心理的安全性のある職場作り
心理的安全性のある職場とは、安心して自分の考えや気持ちを伝えられる職場のこと。失敗が叱責される環境では、積極的な行動がためらわれるでしょう。失敗を責め立てるのではなく、失敗した理由を考えさせるほうが今後の成長につながるもの。また、自走を賞賛する制度作り、人間関係の見直しなども、心理的安全性のある職場作りにつながります。
研修を実施する
自走型人材を育てるには、「そもそも自走とは何か」「自走はなぜ大切なのか」など、前提となる理論を社員に学んでもらう必要があります。インプット型・アウトプット型を組み合わせたハイブリッド型の研修を実施して、自走力の理解を促しましょう。
インプット型の研修とは、自走の概念や重要性、自走するための具体的な仕事の進め方などを学習するもので、時間と場所の制約を受けないeラーニングの活用が有効です。知識をインプットしたら、業務を通じたアウトプット型の研修に移り、インプットとアウトプットを繰り返しながら学習の理解を深めるとよいでしょう。
自走型組織の作り方
前述の方法で自走できる人材育成の方法を解説しました。以下では、組織として人材をまとめあげるポイントを解説します。従来のトップダウン型の組織と自走型組織では、組織構成において重視するポイントが異なります。
目標を定め、社内周知を行う
自走型組織を作るポイントは、共通認識となる目標や理念を掲げること。目標や理念が共有されていなければ、組織が間違った方向に進んでしまいます。
目標を達成したら、組織としてさらに成長するためにも、新しい目標は少し高めに設定するとよいでしょう。無茶なレベルの目標は社員のモチベーションを損なう恐れもあります。達成できるかどうか、ラインの見極めが重要になるでしょう。
サーバント型リーダーを置く
自走型組織には、社員を支援するスタイルをとるサーバント型リーダーが適しています。従来の管理型リーダーは上層部が決めた方針をメンバーに通達し、進捗状況の管理や意思決定を担っていました。
一方サーバント型リーダーには、組織を個性するメンバーそれぞれの自主性を引き出し、発言を尊重してモチベーションを高める役割が求められます。サーバント型リーダーが率いる組織では、リーダーとメンバーの距離が近いため、組織の目標達成に向けてお互いが協力し合えるのです。
質問ではなく確認にシフトする
自走型組織のリーダーには、指示ではなく、ヒントを与える役割が求められます。自走できない社員は、「◯◯のような状態ですが、どうすればよいですか」と尋ねてくるでしょう。しかし、自走型組織を作るには、部下自身の力で答えを見つけてもらわなくてはいけません。
「答えそのもの」ではなく「考えるヒント」を与え、「◯◯のような状態なので◯◯をしたいのですが、よいですか」などと、確認させるように仕向けましょう。
人材と組織の自走力を高めるなら「manebi eラーニング」
自走型人材で構成された組織は、企業力を高めます。自社が求める人材を定義して、業務や研修を通じて自走力を高めましょう。また、社員が自走力を発揮するためには、環境作りも重要です。失敗を責めず安心して発言できる環境づくりを心掛けてみてください。
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